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「お前が俺のために嫌われ役をしていたって壱縷が、」

「仮にそうだとしてそれがどうだっていうの」


言葉の途中で遮るために強い口調で言い返す。
眼光を鋭くして睨み上げ、全身で拒絶を表すかのように。

過去は変えられない。
これまで築き上げてものは確固たる事実としてこれからも存在していく。
未来もそれは変えることができないのだ。

仲直りをするとか、解り合うとか簡単にできる問題じゃない。
『敵』に好意を持ったところで何も良いことはない。苦しむだけ。


「私は、吸血鬼だ。それも純血より忌まわしい稀少の。
 あなたの運命を狂わせた呪わしき獣。そんな存在(モノ)に狩人のあなたが気にかける必要なんてない」


だからもうこれ以上、心を掻き乱すようなことしないで。

始めは確かに零のためだったかもしれない。
でもいつからか自分が傷付かないために、取り返しがつかないほどの傷を受けないためにと目的が変わっていた。
つまり、零のためという名目で自分のために零を傷付けた。


「……今ここで殺されてもいいと思ったのは、私だって同じだ」

「ッ、俺は……」

「純血は全部滅ぼすんでしょ。なら、銃爪(トリガー)を引け。
 あなたには私を殺す権利がある」


自ら銃口を額に押し付け手を放し、視界を暗闇へと閉じ込める。
この人になら殺されてもいいと思った。……違う、殺されるならこの人がいいと。
勝手な感情から思って、この行為もまた傷付けることに繋がるとわかっていたけれど、それでも望んだ。

錐生零にこの罪深き人生の幕を下ろして欲しい――と。


「『純血殺し』を気にしてるなら平気だよ。元より私は、存在しな――ッ!?」


感じたのは銃弾が躯を貫く痛みでもなく、ふわりとあたたかい抱擁のぬくもり。

思わず目を開けて飛び込んできたのは視界の端で揺れる色素の薄い髪だった。


「それでも俺は、お前の血だけが欲しかったよ……」


そっと首筋にかかる吐息。


「欲しくてたまらない……。相手の命を貪るまで絶対に満たされない……おざましいほどの卑しい貪欲さ……。
 ……そういう、生き物だろう……?」

「……っ」


何度も経験した鋭い牙が肌を穿つ感覚。

目を合わせて、惹かれるように唇を重ねて――……。
















「行け……。
 ……次に会った時は……お前も殺す……」

「じゃあ、私は逃げ続けるよ。
 敵が存在することが生きる理由になるなら……」


そうして二人はお互いに背を向ける。
決して交わることのない、それぞれの道を進むために……。