09



「こいつは僕と同じぐらい悪い吸血鬼だぞ。
 血を分けた弟を取り込んだんだからな」




「そこまで追い込んだのはあなたのくせに……!!」




ざわつく気配に怒りが混じる。

名前の激情を向けられた李土はしばらくして唇を残忍に形取った。
見下すように、憐れむように、挑発するように。


「自らの運命と重ねたか?――稀少の姫よ」

「ッーー!!」


一閃の風が空気を裂く。

刹那の速さで李土の背後に移動した名前はアテナを振りかぶった……が、


「さがれ……。俺の獲物をとるな」


鎌は喉を刈ることなく、零によって阻まれる。

納得いかない。
どうして止める?どうして殺していけない?
この男さえいなければ、あの方も両親も壱縷を死なずにすんだのに。


「私は全ての元凶そのもののこの男を……!!」


ビュッ、と。
荒ぶる感情に従って持て余す力が零の頬に傷をつける。

流れる血によって我に返り「あ……、」と思わず力を緩めた。


「ふふ……、そうやって怒ると本当に彼女に感じが似ている……」

「ッ!!?」

「邪魔だ」


アテナの刃を受け止めた蔦が名前を振り下ろす。
続けて様子を窺っていた優姫も同じく屋根の下へと、落とされた。

上下が逆さまになった視界で捉えた幼馴染と叔父の顔。

大切なのに傷付けるしかない幼馴染の少年。
血縁者にも関わらず憎しみしか抱けない叔父の男。


「なんでかな……」


兄から聞いた最終的な構図そのもののなのに。
ずっとこの十年望み続けたものなのに、どうして。


「どうしてこんなに、私は……」


そこから先の言葉は、名前の口から発せられることはなかった。