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二年前の4月。
桜舞う季節に来神高校に入学したばかりだった私は彼に恋をした。






来神の名物といえば平和島静雄と折原臨也の戦争だ。
開戦の合図は互いに顔を合わせた時。その瞬間、机やら扉やらが飛び交い、教室であろうとグラウンドであろうとそこは戦場と化す。


「うわー、またやってるよあの二人」

「よく飽きないねぇ」


今年入学したばかりの1年生はともかく、3年目に突入した彼らは慣れたもので。
受験勉強に追われる傍ら、観戦するのが日常となっていた。

そこでシャーペンを走らせていた名前は友人達の会話に手を止め、チラリと視線を窓の外に投げる。
どこから取ってきたのかちょうど電柱が宙を飛んでいた。
相変わらず、現実なのに現実とは程遠い光景だ。


「でも二人共カッコイイよねー。ちょっと怖いけどそこがイイっていうか」

「あ、わかるかも!ちなみに二人はどっちがタイプ?」

「私は折原くん!!」

「私もー!……名前は?名前も折原くん派?」


振られた名前は「んー……」と悩む素振りをしながらもう一度窓の外を見る。
すでに戦争は終結していた。二人のどちらも姿はなく、残骸があるだけ。

脳裏を掠めたのは、黒髪を揺らしてナイフを振り回す彼の姿。


「……平和島くんかな。優しそうだし」

「え、優しそう?平和島くんが?いっつも暴れてるの平和島くんじゃん」

「それは誰かが怒らせてるからでしょ。普段は大人しいし」


付け加えてもあまり名前に共感はできないのか反応は乏しい。
名前は苦笑しながら「それより、」と続けた。


「勉強しなくていいの?次の数学当たるんじゃない?」

「ヤバッ、忘れてた。名前、ノート見せてー!」


話題を逸らせたことに安堵して人知れず息を吐く。

これでいい。間違っても本人の耳に届くよりは遥かによかった。
どうせ関わることはないんだから……と。



そう、そのつもりだったのに。



「名字名前さんだよね?」


短ランに赤いシャツ。
人の良い笑顔を浮かべた折原臨也が名前の前に立っていた。

……どうしてこうなった?