非日常を呼ぶ火種
「帝人先輩、こんにちは!」
明るくハキハキした声で挨拶すると、帝人はいつもの穏やかな表情で名前に挨拶を返す。
お互いに童顔。そして私服なことを加えると傍から見れば中学生同士に見えるかもしれない。
仮に高校生だと判断できても、二人のそれぞれが“カラーギャングの創始者であり、今から起こるであろう騒動の中心人物である”ことは見抜けないだろうが。
「こんなふうに会うなんて奇遇ですね。園原先輩とデートですか?」
「え!?いやっ違うよ!ちょっと買い物に僕一人で来ただけだから!!」
「そんな焦らなくても……。少しからかってみただけです」
苦笑しながら、それでも「すみません」と素直に謝る名前。
名前は、学校の先輩でありダラーズの創始者であり現在ブルースクウェアのリーダーでもある竜ヶ峰帝人を尊敬していた。
嘘でも偽りでもなく、本心から。
だからこそ担ぐ神輿に乗る人物として選んだのだ。
けれどそれは尊敬というよりも期待に近い。
「名前ちゃんは?これからどこに行くの?」
「私は友達と遊びに。いけふくろうのところで待ち合わせなんですよ」
「そうなんだ。じゃあ、もう行った方がいいんじゃないかな?」
「はい。少し早く出たので今行けばちょうどいいかもしれません」
チラリと時計を確認して頷く。
早く着くならまだしも、“彼女達”を待たせてしまったら面倒なことになる。
それは怒られるという意味ではなく、トラブルメーカーな二人が暇潰しに騒ぎを起こしてしまうことを危惧してのことだった。
なので、名前は帝人の言うように向かうことにした。
「では、また」
「うん。“何かあったら”連絡するね」
変わらない穏やかな笑みを見て思う。
この人は自分が予想していたよりも歪んでいると。
力を使うことに躊躇いもせず、だからといって力に酔いしれているわけでもなく、ただ当たり前のように行使する。
けれど彼は、『竜ヶ峰帝人』という人間は、どうしようもないほど『人間らしい』。
……と、自身が嫌悪する男と似た思考に陥っていることに気付き、しかめた顔を帝人に見られてしまわぬよう苦労したのだった。