10
「はい、お茶でよかった?」
「うん。ありがとう」
キャップを捻ってごくりと一口。
……何でこうなるの?
最後が最後で気まずく、適当に話して別れるかと思いきや、あれよあれよとベンチに並んで座ることに。
落ち着こうとおごってもらったお茶に口付けてみたわけだが、効果はあまりなかったようだ。
大体、名前からすれば臨也が自分のことを覚えていたことに吃驚である。
興味ない人間なんてすぐ忘れそうなのに。
「名前ちゃんは千葉の大学に行ったんだっけ。今日はどうしたの?」
「授業が休みだから久々に来てみようかなって思って……」
当たり障りのない近況を話しながら内心ではまだ首を傾げる。
どうも違和感があるような気がする。
というよりも、少し関わった高校時代、臨也はこんなにフレンドリーだっただろうか。わざと好意があるフリをしていた時はそんな感じだったが、今の臨也とは少し違う。
具体的にと聞かれれば答えに窮するが、何となくそんな感じがするのだ。
強いて言えば自然体っぽいような……。
「折原くんは?今、何してるの?」
気を紛らわせようと流れで訊いてみる。
臨也は名前の進路を知っているが、名前は臨也のを知らない。
どうしても知りたいわけでもないけれど、突っ込んだことを訊くよりは無難だろう。
「俺?俺は情報屋をやってるよ」
「……情報屋?」
職業としては何とも現実味が薄い。
胡散臭い感満載だが、相手が臨也だと妙に納得できるから不思議だ。
高校の時から手を出してたんだろうな、と今更ながら情報通だった理由に思い当たる。
「ま、一応来良大学に籍は置いてるけどね」
「そうなんだ。……わ、」
強い風が吹いた。
木々が揺られザァッと音を奏で、葉から離れた桜の花びらが宙を踊る。
それはとても美しかった。
思わず微笑んで目で追った名前。
やがて風が止んで、落ち着いた頃に名前は笑顔のまま臨也に視線を戻した。
「綺麗だっ……ん、」
腰と腕を引かれて触れた、唇への熱。
視界に広がった臨也の顔は近すぎて逆にぼやけて見える。
そっと離れると同時、名前の瞳からポロ……と滴が零れた。
臨也は眉尻を下げて困ったように笑い、零れた涙を優しく拭う。
そして名前の体を引き寄せて抱き締めた。
「ごめんね。俺、名前ちゃんを傷付けてばっかだね」
「な、んで……」
「自分勝手だってのはわかってるよ。でも、好きなんだ。
笑顔も全部俺のものにしたいし、俺のことを想ってほしい」
一途に想って自分の願いよりも相手を優先した名前と反対に、自分の欲を素直に言う臨也。
「好きだよ。嘘でもフリでもない俺の本心だから、
俺と付き合ってください」
顔を覗き込む真摯な目を見て、名前はトクンと心臓が跳ねる。
桜舞う季節にした恋は、実ることなく二年以上の時を経て終わった。
そして、今、
「わたしも、すき……っ」
桜が舞う頃、また貴方に恋をした。
fin.