07



二年前、春。
その年の桜は気候の影響で咲くのが遅く、入学してから1週間が経った今でもまだ桜の花が風に揺られて舞っていた。

彼に会ったのは、その景色に思わず見惚れていた時だった。


「はい、これ落としたよ」

「あっすみません!ありがとうございます」

「どういたしまして」


綺麗な人だと、思った。
男の子なのに女の私よりも綺麗で、眉目秀麗ってこういう人のことを指すんだろうなって。

……でも、だからかな。
余計、その整った顔立ちに張り付けられた笑顔が薄っぺらく見えて。


正直、嫌悪感すら抱いた。




***





いつものように下駄箱から上履きを取り出し、履き替えた名前は壁に寄りかかって自分を見ている臨也に思わず足を止めた。
昨日の図書室で告げた後、名前が逃げるように去って以来話していない。

あの日から見かける度にやたらと反応する心臓を持て余して、甘酸っぱい痺れが体中を巡る。
鋭い臨也の視線から逸らして、名前は務めて冷静な表情で横を過ぎた。


「案外、嘘付きだね。君って」

「……」

「昨日の言葉はただ俺を追い払いがために言っただけで、本当は俺のこと嫌いでしょ?」


ピタリと止めた足。
背後からかかる声は疑問形にはなっているが確信を持っていた。ただ一応の確認のために問いかけているにすぎない。


「……そうだね」


ゆっくりと名前が振り返る。

臨也の指摘は間違っていない。間違っていないけど、


「その薄っぺらい表情を貼り付けてる折原くんは嫌いだよ」


昨日の告白も嘘なんかじゃない。