06
「折原くんが私に好意を持ってるフリして近付いて来たのは、ただ私がどんな反応するか見たかっただけだよね。
仮に私がその告白を受けたら適当に相手して、遊んで、弄んでから捨てるつもりだった……違う?」
折原臨也の黒い噂ならずっと前から知っていた。
噂で人を勝手に判断するのはどうかと思うけれど、名前はそれがほぼ実際とそう変わらないと確信していた。
そうじゃなきゃ可笑しいのだ。
こんな自分みたいな、どこにでもいるような女を臨也が好きになるはずがない。
きっかけの『臨也より静雄の方がいい』も本当はどうでもよかったのだろう。偶々目に留まったのが名前だった。それだけのこと。
「……驚いたな。まさか見破られてると思わなかった。
名前ちゃんの言う通り、興味本位で近付いたんだけど……どうしてわかったの?俺の演技、かなり上手かったはずなんだけど」
今更繕うともしない臨也の疑問に、名前は唇をきゅっと結ぶ。
確かに臨也の演技は完璧だった。
それこそ名前が勘違いしそうになってしまうほどに。
でも、それでも、名前が演技だと見抜けたのは、
「だって私、折原くんのことずっと見てたから」
「それってどういう……」
「私は、折原くんが好きだよ」
見開かれた臨也の瞳。
そのルビーみたいに赤い双眸に映った名前の寂しげな微笑。
本当は、言うつもりなかったのにな。
ずっとずっと、この仄かな淡い想いだけは誰にも告げないつもりだったのに。
どうしてこうなったんだろう、と過去を振り返りながら名前はもう一度言った。
「好きだよ。
……だから、ばいばい」
あの、桜の日から貴方が好きなんです。
どうか振り向いて欲しいとは望まないから、好きでいてもいいですか?