05
来神高校の図書室は、無人であることの方が多い。
偶に先生や生徒が調べものに使う程度。
あまり本の揃えがよくなく、ほこりっぽいため本を読みたい人は近場の図書館に行くことになる。
結果として、名前と臨也の二人っきりとなっていた。
「名前ちゃんて内部進学じゃなかったよね?どこに行くの?」
「えっと、千葉の大学に……」
何で内部じゃないって知ってるんだろう。
気にはなったが追及はしない方がいいと勘が告げるので黙っておく。
触らぬ神に祟りなし。好奇心は猫をも殺す。
部屋の一角を占領し、ノート等が広げられた机。
約束通りに開かれた勉強会は名前の予想以上だった。
臨也の頭はかなり良く、教え方は上手い。
おかげでわからなかったところがすっかり解けてしまった。
……そのせいでこう雑談できるほどの余裕ができてしまったわけだが。
「千葉かぁ……うん、会えない距離じゃないね」
大学言っても交流を続けるつもりか。
というより、すでに付き合ってます的な雰囲気はなんだろ。
名前は逡巡した後、思い切って尋ねてみることにした。
「何で私なの?」
「好きだからだよ」
清々しいほどの即答。
臨也ほどのイケメンにまっすぐに言われたら女の子は嬉しいものだろう。
……けれど、名前は少しも顔を赤くすることなくはっきりと言い切った。
「嘘」
「本当だよ。名前ちゃんが好きで付き合いたいと思ってる。
これでも思い切って告白したんだよ?それを疑うなんて酷いなぁ」
声と表情だけ見れば、臨也が傷付いているように見える。
でも名前は気付いていた。
臨也の目に全くといっていいほど、失意の色が浮かんでいないことに。
「もう、いいよ。
私は折原くんが何を言っても、何をしても折原くんと付き合う気ないから」
だから、その“私に好意を持ってるフリ”をやめてよ。
淡々と言い切った名前に臨也は瞠目して表情をなくす。
そして今までとはまるっきり違う、嘲りを含んだ冷笑が口元に浮かんだ。