04
「見ーつけた」
まるでかくれんぼをしていた鬼役の子が見つけて喜ぶような声。
その声が聞こえた瞬間、名前はビクリと肩を上下させた。
恐る恐る振り返って予想と違わないことを確認し「折原くん……」と呟く。
臨也はお弁当を広げた名前の隣りに腰を下ろし、同じように昼食を摂り始めた。
いかにも自然な動作で。口を挟む暇を与えずに。
「教室行ったら名前ちゃんいないしさ、捜しちゃったよ」
「ご、ごめん……って私、折原くんと約束してたっけ?」
「いや?してないよ。俺が名前ちゃんと食べたかっただけ」
どういう顔をすればいいのかわからなくて、取り敢えず苦笑しておく名前。
いつも一緒に食べる友人が二人共用事でいなく、臨也が来ることも考えて念のため人気のない中庭を選んだ名前だったが、どうもその判断は正解だったようだ。
ただでさえ朝ので噂になっているのに、一緒に食べているところを誰かに見られでもしたら噂を裏付けるに等しい。
それは何としても名前は避けたかった。
「ねぇ、それ名前ちゃんが作ってるの?」
「そうだけど……」
「美味しそうだね。一つもらってもいい?」
「う、ん……」
卵焼きがいいとリクエスト通りに掴んだはいいがどこに置けばいいものか。
悩んだ末、お弁当の蓋に乗せようとした時、制服の袖を引かれた。
何だろうと見て……固まる。
臨也がまるで雛鳥が親から餌を与えられるのを待っているかのように、口を開けたままでいるではないか。
まさか恋人同士がやる、俗に言う『あーん』をやれと?
羞恥で固まる名前を臨也が急かす。
どことなく楽しそうに見えるのはおそらく見間違いじゃない。
意を決して口元に箸を運ぶと臨也はパクリと口に含んだ。
「ん、美味しい。名前ちゃん、いいお嫁さんになれそうだね」
「あ、ありがとう……」
もうやだ。何なのこれ!?何でこんなことになってるの!!?
頬を僅かに染めて名前が俯く。
臨也はにこにこと名前を見ていたが「あ、そうだ」と傍らに置いていた教科書を渡した。
「貸してくれてありがとう。助かったよ。今度お礼するね」
「え、いいよ。別に。大したことじゃないし」
「俺がしたいんだけど……ダメ?」
だったらもう関わらないでほしいと言えばそうしてくれるだろうか。
なんて、叶えてくれそうにない希望が浮かぶ。
ここで有耶無耶にしたままだと余計面倒なことになるのは予測済み。
ある程度、甘えてしまった方がいいだろう。
悩んだ名前の目に留まったのは先ほど返してもらったばかりの数学の教科書。
「……じゃあ、勉強教えてくれる?折原くんって確か頭良かったよね?」
「そんなのでいいの?」
頷いてから、名前は後悔した。
嫌だ嫌だと思いながら、どうして自ら交流を持つようにしてしまったのか。
これじゃ、逆効果だ。
私は、折原くんと関わりたくないのに……。
「じゃあ、今日の放課後に図書室でどう?ダメなら明日でもいいよ」
「……ううん、今日でいい。よろしくね」
重たいものが肩にのしかかり、
心臓が強く掴まれている気がした。