03



キィン、と金属同士がぶつかる音叉が響く。

ロッドとトンファーの競り合い。
男女の差からかロッドの方が若干押されているがトンファーが振り切れるほどのものでもなく。ほぼ互角。
もう一方のトンファーが下から襲い掛かり、それには後ろへ逸らすことで躱した。
そして崩れた力の均衡に乗じて連続で仕掛けるが、それには頭上に飛び上がることで回避。

その軽やかさはまるで演舞を観ているよう。
……もっとも周囲にある抉れた木を見ればそんな考えは吹っ飛ぶのだが。


「あいつらって恋人同士だったよな?本気でやってねーか……?」


希明と雲雀の戦り合いを見ていたディーノが呟くも無理はない。

恋人と言えばもっとこう甘いものをイメージする。
なのに今現在その二人がやっているのは本気の戦い。イメージからは程遠いどころか、付き合う前と大差ない気がする。

とはいっても、戦闘狂な雲雀がそうしてるところも想像できないし、あの希明がそういうのを望むとは思えないがそれはおいておく。


「にしても……はぁ〜、本当に中坊かよ。肉弾戦ならあいつらに勝てる奴は滅多にいねーだろ」

「守護者ツートップですから。まあ、お二人共認めてはいませんが……」


呆れ混じりの呟きに隣りにいた草壁が答える。
「全くだ」と頷きながらも視線は二人から外さない。
瞬きすらも惜しむほど、二人の攻防は見事なものだった。視線を逸らすなど愚行でしかない。

あの二人がツナの守護者として協力してくれたらどんなに心強いか。
でも相手は自由な雪と孤高の雲。期待するだけ無駄である。
特に希明は他人に理解されにくい性格をしているので厄介だった。


「恭弥、希明!お前らそこまでにしとけよ!!」


ディーノが声を張り上げた瞬間ピタリと止まった動き。
希明はディーノを一瞥してロッドを喉元から引き、雲雀は不機嫌に睨みつける。
止まられたのがよほど気に喰わないらしい。劣勢だったから余計に。

怒りからトンファーの矛先がディーノへ変わる。
それに慌ててまた声を上げた。


「待てって!今からみっちり鍛えてやっから!!」

「嫌だね」


制止もむなしく始まった師弟対決。
草壁やロマーリオが止めに入る中、一人傍観していた希明はポツリと呟いた。


「……もう帰ろうかな」


結局、雲雀を止めたのはディーノでもなく止めに入った二人でもなく、実際に帰ろうとした希明であったという。