55



「雪城希明さん?」


振り返った顔が例の転入生で、希明は珍しくしまったと思った。

襟足の長い金髪に碧眼。
外国人かと見紛う整った容姿はさぞかし人目を引くだろう。
本人にそのつもりはないとしても。

二人を取り囲む周囲に人影は見えない。
そうなったのはわざとかもしれないが、少なくとも希明はその方が都合がよかった。


「僕は海云流(カイウン ナガレ)。……少し時間を貰えない?君と話がしたいんだ」

「……いいけど」


海云は、希明の返答に笑みを刻む。
それはどことなく違和感を感じてしまう表情だった。

霞を掴むような、掴んだのか掴んでいないのかわからない表情。


「話って何?」

「実は、前々からボンゴレの雪に興味があってね」

「悪いけど、私は雪になったつもりもボンゴレに入ったつもりもない。アイツらと一緒にしないでくれる?」


眉を歪め不機嫌そうに吐き捨てた希明に海云は……笑った。
さも可笑しそうに。さも、嬉しそうに。

それを怪訝に思うと同時にゾクリと恐怖にも似た、しかしそれとは根本的に違う何かが背筋を這う。


「やっぱり僕が思った通りだ。……僕もね、“君と同じ”なんだよ」

「何が、言いたい」

「僕もシモンファミリーに入ったつもりもないし……正直、シモンがどうなろうとどうでもいい」



「私はボンゴレがどうなろうとどうでもいいわけ。勝手に仲間扱いしないでくれる?」



屋上で海云がシモンファミリーとは近付離れずの距離を取り、フェンスに寄りかかって見ていた体勢は『傍観』という言葉が合う。
……まるで希明、みたいに。


「君は僕の、僕は君の、唯一の……理解者ってこと」


海云は酷く愛おしそうに、物欲しそうに希明の頬を撫ぜた。

















バン、と乱雑に開かれた扉に雲雀が片眉を上げると、そこには逃げるように飛び込んできた希明がいて、驚愕から言おうとしていた文句が吹き飛ぶ。

希明は吃驚したままの雲雀に無言で抱き付いた。
青い髪が散らばって流れ、顔が雲雀の肩に埋まる。


「どうかした?」

「……今朝の屋上にいた金髪……覚えてる?ずっとフェンスに寄りかかってた奴」

「覚えてるけど……そいつに何かされた?」


自分の恋人が誰かに何かされても挫けるような弱い精神だとは思っていない。
けれど、そうは訊かずにいれないほど今の希明の雰囲気は危うかった。


「そうじゃない。そうじゃなくて、ただ話しただけなんだけど……」


理解者だと言われて吐き気がした。
もう二度と会いたくないとすら思った。関わる・関わらない以前に。

心に強く焼き付いたのは、気持ち悪いぐらいの『嫌悪』。


「咬み殺してこようか?」

「いや、いい。むしろ関わってほしくない」


不安のような得たいの知れない何かが澱の如く溜まっていくのを感じ、希明は雲雀に縋る手を強くした。