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「俺さ、本当はわかってんだ。俺はどうやったって……」


どうやったって希明の『特別』になれないことぐらい、わかってた。

諦めじゃない事実。
告げたところで報われない想いなら、黙って今まで通りにしていよう。
そう決めたのに、その決意を揺らがせたのはやっぱり希明だった。

誰も近寄らせないはずの希明の隣りにいつの間にかいた雲雀の存在。
山本が希明を追うように、希明の視線は雲雀に向いていて。


「俺は、希明が好きだ」


自分の想いを告げて、希明が自分のものになるとは思ってない。
だけど、少しでもほんの僅かでも、自分だけを見て欲しいと思った。


「初めて会った時から好きだった」


希明の青い髪が風に煽られて靡き、青い瞳が瞬きをする。

唇が微かに開いた時、山本は真剣でいた表情に苦笑を乗せた。
言わなくてもいいとでも言うように遮る形で声を発する。


「言わなくてもわかってるのな。……希明が好きなのはヒバリなんだろ?ヒバリと、付き合ってるんだろ?」

「……うん、」

「いいんだ。ただ俺が伝えときたかっただけなのな。希明が俺を“そういう”目で見てないことは知ってっから」


山本の言う通り、希明は山本を異性として、つまり恋愛対象として見たことはない。
きっとそれはこれからも。

でも、認めてた。

ツナや獄寺のようなただの『キャラ』として接するわけではなく、『山本武』という一人の『人間』として。
いつもまっすぐに向けてくる笑顔に好感を持てるほどに認めてはいたから。

だから山本が言ってくれた「好き」の言葉が純粋に嬉しいと思った。


「ごめん。……それと、ありがとう」













誰もいない屋上でフラれたばかりの希明と二人っきりというのには耐えられなかったのか、山本が退場してから数十分。
本来の目的であった昼寝も、もうすっかり眠気が吹き飛んでしまってそんなところではなく。

応接室に戻ってしまおうかと考えていると扉が錆びた音を立てて開き、その向こうには学ランを靡かせた雲雀が立っていた。


「仕事、終わったの?」

「まぁね。……それより、一つ訊きたいんだけど」

「ん?」

「山本武に告白でもされたかい?」


唐突に指摘された事実に希明は驚きを隠しきれずに目を見開かせる。

そんな些細な反応を見逃さなかった雲雀はそれを答えと取り、やっぱりと言いたげに肩を竦めて先程山本が座っていたところに腰を下ろした。


「……何でわかったわけ?」

「さっき彼に会ったんだよ。あんな顔されれば嫌でも想像がつくさ。……咬み殺す気も失せた」


さすがの雲雀も追い打ちをかけるのは後ろめたくも思ったらしい。
目の前で風紀を乱している人物がいるのに見逃すとは、風紀委員長らしくないと言ってもよかったが今回ばかりは山本を庇いたい気持ちもあったので無言を通す。

そこでもう一つ希明の中で疑問が浮かぶが、それも雲雀が先回りして答えてくれた。


「彼が君に想いを寄せてるのはずいぶん前からわかってたことだよ。むしろ、君以外の人の大半は知ってたけど」

「……嘘、」

「君の鈍感具合ってある意味罪だよね。僕としてはありがたくも困る要因でもあったりするよ」


鈍感だったのは何も山本だけではなく雲雀だった過去もあるので何も言えない希明。

対して雲雀は苛立っているのか、乱暴に希明を引き寄せて真一文字に結んでいた唇にキスを落とす。
くぐもった希明の声と微かな抵抗を見せる手に気にした様子もなく、気の済むまで貪っていた。

ようやく解放された時には希明の息も上がっており、色づきの薄い頬も赤みが差してる。
希明と雲雀の口を透明の糸が繋ぐ。


「どう、か、した……?」

「好きな子が他の男に告白されて良い気になるわけないでしょ。これぐらいで済んでよかったと思いなよ」


希明は雲雀の彼女だ。希明が好きなのも自分。
それをわかっていても不安になったり嫉妬だってする。

希明が他人から見てどうしようもないほどに魅力的だってことは、雲雀は嫌になるほど理解していたから。