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「こんなところで奇遇だね。また会えて嬉しいよ、希明チャン」


片や、にこやかな真意を読ませない顔で笑う男。
片や、肩での呼吸を繰り返しながらその男を睨む少女。


「……奇遇なんてどの口がそれを言う。アンタの部下に私を連れてくるよう命じといて」

「んー、それもそうだけど、希明チャンだって結局は追い返したわけじゃない。たとえ自分の手じゃなくて、だーい好きな恋人のおかげだとしてもね」


台詞の後半に棘を感じた気がしたが、希明はすぐさま考えることを放棄した。
この男の考えが読めないのは毎回のこと。
一つ一つの意味を考えたって時間の無駄だ。

というわけで、希明は矛先を変えることにする。


「で、さっきのアンタ似た“あれ”何なの?」

「GHOSTのこと?彼は僕の雷の真6弔花だよ」

「そんなのはリングでわかった。私が訊いてるのは存在そのものについて」


わかってるくせにわざと焦らす態度が苛つく。

吐き捨てる希明に白蘭はまたも笑顔を浮かべた。


「希明チャンはさ、自分が2人いたら仕事が楽になると思ったことはない?」

「……は?」

「彼、GHOSTはね、僕が他のパラレルワールドから連れてきたもう一人の僕なんだ♪
 君だって覚えはあるはずだよ?他の世界から連れて来られた人間をね」

「……佳弥、」


静かに紡いだ名前に白蘭が頷く。

灰が言っていた、この男が研究していたもの。きっとその結果がGHOSTとかいうのなんだろう。
佳弥と似ているように思ったのも道理だ。

何せ、あれと『人形』の佳弥は、他の世界から連れて来られた失敗作という意味で同じなのだから。


「さて、と。名残惜しいけど僕はもう行くね」

「、私がそう簡単に行かせるとでも……」

「あはは、ダメだよー、無理したら。GHOSTに死ぬ気の炎をほとんど吸われたんだからさ」


否定できないところが悔しい。
確かに今のこの状態だと白蘭に傷一つ負わせることだってできやしないだろう。
逆に返り討ちにされるところが想像できてしまう自分に腹が立つ。

けれど、いくら勝てないからといって引き下がるのかといえばまた話は別だった。


「関係ない。私がアンタに勝てなくても、それは戦わない理由にはならない」


決して手折られることのない雪の花。
常に強く美しく、揺らがない瞳の鋭さが希明の象徴とも言えた。


「……ふふ、希明チャンのそういうとこ好きだよ。だから、」

「っ、」

「僕が全てを手に入れるまで待っててよ」


一瞬で背後に回られ、反応するよりも前に首裏にトンと衝撃がくる。

「またね」と楽しげな声を最後に希明は遠退いていた意識を完全に手放したのだった。