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天地の境目すら失せた、灰色だけで構成された世界――『生と死の狭間』。

常時存在する唯一である灰は、宙に浮かぶように映っている現(うつつ)の様子を眺めていた。
そこに映るのは主に希明の姿で、楽しそうに今世の人生を謳歌している様子に自然と灰の頬も緩んでいる。


「どうやら、君が心配しなくても大丈夫そうだぞ……一ノ瀬佳弥」


親友を心配し、灰に見守るよう頼んだ少女を思いながらそう呟いた。
そしてふと、希明の前世を思い返す。

生と死の狭間(ここ)に来る人間の情報は、生まれた時から死に至る過程まで鮮明に灰は知らされている。
人間そのものに絶望し、自分すらも嫌ってしまった少女。
後に親友となる少女に出会ったことで多少は軟化されても、根本を変えることができなかった。

自分の死すらも無表情で受け入れていた希明を見て、不器用で難しい少女だと感じたのをよく覚えている。


「まったく、私がこうも気に掛ける人間はほとんどいないというのに……。まぁ、存外彼女のことは気に入ってるから悪くはないが」


ふ、と笑みを零した灰は振り払うような仕草をして今まで映していた映像を消した。
そして再び、灰色意外は何もない世界に身を浸す。


「お前の幸運を、そして幸福を祈っている。希明……」




















一度目で孤独を知り、絶望を知り、佳弥に出会った。
二度目では恋を知り、愛を知り、雲雀に出会った。

どちらも希明が望んで得た生ではない。


「私は私の道を行く。邪魔するなら誰であろうと潰すから」


自分の意志を貫き通す生き方は、ずっと難しくて辛いことだってたくさんあった。
それでも意志を曲げないその様は美しく、まるで一輪の花のようで。

雪花のようだと囁かれた少女は雲の少年の隣りで、いつまでも凛として咲き誇っていた。




fin.