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シモンと和解し、元の日常に戻りつつある日常。
……否。元の日常にシモンが加わったことで、ただでさえ騒がしかった学校生活が更に煩いものになっていた。


「……何、やってんの」

「雪城さん!いいところに……!!」


ツナの言う『いいところ』が希明にとって逆の意味になるのは、この状況を見れば一目瞭然だった。

甲高い金属音に地面の抉れる鈍い音。
顔を青くして慌てているツナの目線の先には、続けざまに攻撃を仕掛け合っている雲雀と骸がいて……。

頭の痛い光景に思わず額を押さえる。
というよりも、放置してもいいだろうか。


「てかさ、私を頼りにするよりも先に自分でやれば?死ぬ気になればできないこともないでしょ」

「い、いや、それはちょっと……」

「10代目自らわざわざ出てくるほどのことじゃねぇんだよ!テメェがさっさと止めてくれればいい話だろうが!」

「そこまで言うならアンタがやればいいと思うんだけど……」


ちらりと獄寺を見れば服は汚れ、肌には擦り傷や切り傷が滲んでいた。
どうやら希明に言われるまでもなくすでに実行し、返り討ちに遭って失敗したらしい。

獄寺の隣りには同じくボロボロの格好で山本が笑っている。


「悪ぃな、希明。俺らだけじゃ力不足だったのな」

「……まぁ、私も二人に用があるからいいけど」


ロッドを軽く振るい、溜め息を吐いた。

デイモンの一件で功績を認められ、出所が叶った骸。
いずれ決着をと考えていた雲雀が戦いを望むのは予想できたことだったが、もう少しいろんなことを考えてほしかった。
とはいっても、周囲に気遣う二人もそれはそれで気味が悪いのだが。

戦場と化した校庭の中心に向かって歩く。
近付くにつれて大きくなる音と肌を刺す殺気に、希明はロッドを振り上げて素早く動いた。


「っ、」

「!?」

「はい、そこまで」


ロッドによって的確に弾かれ、宙に弧を描くようにして飛んでいったそれぞれの武器。
互いに素手で戦うタイプでないため、自然と戦いが止まる。

獄寺や山本が力づくでやろうともできなかったことをあっさりとやってのけた希明に背後から賞賛の声が漏れた。


「……邪魔しないでよ、希明」

「なら、こっちの迷惑も考えてくれる?アンタらが暴れる度に巻き込まれる私の身にもなってみろっての」


不機嫌な希明に睨まれ、雲雀がふいとそっぽを向く。
骸はといえば、希明が割って入ってきた時点でこれ以上は戦えないとわかっていたので肩を竦めて降参のポーズを取っていた。


「毎回毎度すみませんねぇ」

「そう思うなら少しは改善しようとしてよね。アンタが下手に煽ってんのも恭弥に火をつけてるってわかってんでしょ」

「善処しますよ。君の怒りを買うのはごめんですから」


互いに不本意だろうとも殺気をしまったのを確認してからロッドをしまう。

こうして止めに入るのも一体何度目か。
そして、これから一体何度止めに入ることになるだろうか。

日常の一部にすでに組み入れられつつある現実に軽く眩暈がした。
けれど、それでも悪くないと思ってる自分がいるのも、また事実だった。