Shizuo:13



結局、心優は引っ越しすることにした。
新羅とセルティはずっといてもいいと言ってくれたがさすがにそこまで甘えられないし、付き合いはじめたばかりの静雄と同棲するには少し早い。
仕事のこともあって、池袋にあるマンションの一室を借りた。

一人暮らしには十分な広さで、臨也と同棲していたマンションよりは当然狭いが、なかなか快適に暮らしている。



「心優さん」


静雄との待ち合わせ場所に向かっていた心優は、背後からかけられた懐かしい声に足を止めた。
振り返って予想通りの人物に破顔する。
……懐かしいとはいっても、顔だけならテレビなどでほぼ毎日見ているのだが。


「幽くん!久しぶりだね。元気にしてた?」

「はい。心優さんもお久しぶりです」


テレビとは違い、会話しているのに表情をあまり変化させない幽に対して気にした様子もなく笑顔を浮かべる。

幽の兄である静雄が互いを紹介して知り合った関係。
偶にメールのやり取りはするが、二人こうやって直接会うのは実に数年ぶりのことだった。

今や知らない者は誰もいないとされる俳優が人の多い池袋で変装しなくていいのだろうか、と頭の片隅に過ぎる疑問だが当の本人は堂々としているのでいいのだろう。
実際気付いている人もいないようだし。
もしかしたら芸能人といっても、外出するのにわざわざ変装することなんてほとんどないのかもしれない。


「あ、今から静雄くんに会いに行くんだけど幽くんも来る?」

「いえ、俺はこれから仕事があるので。……それにせっかくのデートの邪魔はしたくありませんし」

「!」


目を見開いて驚く心優に「兄貴から聞いたんです」と付け足されれば納得した表情になった顔。

本当にこの兄弟は性格とかは正反対だけど仲は良い。
週に一、二度は電話で話すと聞いたから、おそらくその時に報告したのだろう。
昔から変わらない仲の良さに微笑ましさを感じて心優は笑んだ。


「そろそろ時間なので俺は行きます。兄貴をよろしくお願いします……義姉さん」

「!!……うん!幽くんも体に気を付けてお仕事頑張ってね」


『義姉さん』呼びがこそばゆく恥ずかしくもあったけれど、心優は嬉しそうにはにかみながら幽に手を振ったのだった。







あなたの胸に幸せの花を
(心優さんが義姉さんになってくれたらって思ってたけど……本当になってくれてよかった)