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初めて見た時から気に喰わなかった。
不幸なんて知らないと言いたげな顔をして、当たり前のようにあの人の隣りにいて。その当然の権利だと言わんばかりの笑顔がイラついた。

だからあの人が私だけのものになったと思った時、本当に嬉しかったのに。
あんな女よりも私を選んでくれたって嬉しかったのに!


どうして私の邪魔ばかりするのよッ柊麻心優!!





「あんた目障りなのよ!捨てられた分際で臨也さんに付き纏わないでくれる!!?」

「ええと……?」


人気のない路地裏の一角。
無理矢理連れて来られた心優は困惑していた。

街中を歩いていたら知らない女の人に憎悪の目で睨まれ、加減してない力で掴まれた腕を引かれてここに来て、挙句の果てにはヒステリックに糾弾される。
臨也の名前が出たことから「彼関係なんだろうなぁ……」と思うだけ。この女性が誰なのか判断するには頼りない。


「臨也さんはね、私のことを抱いてくれたし、愛してるって言ってくれたの!
 あんたのことなんかこれっぽちも思ってないのよッ!!」


その台詞と鼻孔を擽った甘ったるい香りに心優は理解した。

おそらくこの女性が臨也の彼女さんだろう。
納得して「でも」と思う。
心優からすれば臨也とは別れたつもりで、付き纏ってるなんてとんでもない。むしろ彼女さんと幸せになってほしいとすら願っていたのに。


「あの、何か勘違いを……」

「煩いッ!!」

「ッ……」


ひとまず誤解を解こうと話しかけた途端に受けた衝撃。
勢いのまま壁に叩きつけられ、背中と頬にじんじんとした痛みが走る。


「あんたがいなければ上手くいくのに……!
 二度と臨也さんの前に顔を出せないようにしてやるんだから……!!」


怨嗟に応えるかのごとく、女性の背後にずらりと男達が現れた。








淀んだ激情の引き金
(憎悪と嫉妬で揺らめいた眼。どす黒い不の感情)