予め温めておいたまん丸いティーポットにティーメジャーで掬った茶葉を入れる。
そこに熱湯を注げば茶葉が舞い、ゆっくりと色が水に滲み出して。ポットの口からふわりと香る。

コーヒーよりも紅茶派。でも味に対してあまり頓着しない。
そんな名前が紅茶を手順に則って淹れるようになったのはやはりこの環境が大きいだろう。

二人分のティーカップにミルク、あとはクッキーをトレーに乗せて名前が入ると部屋の主人は嬉しそうに表情を緩めて出迎えた。


「いい匂いだね。名前が用意してくれたの?」

「朝からこもってるって聞いたんで。クッキーは久しぶりに作ったから味の保証はできませんけど」

「へぇ、嬉しいな。名前の料理は滅多に食べれないからね」


果たしてこれを料理を言うかはともかくとして、司が喜んでいるので黙っておく。

カップを持ち上げると紅茶の華やかな香りが鼻腔を擽った。
選んだのはディンブラ。クッキーが甘さ控え目で香ばしいのだからチャイにしてもよかったが、ディンブラならストレートでもミルクを入れても美味しい。
各々の好みに合わせられるとこっちにした。

名前はそのままの味を楽しんでいるが、司は頭を使って疲れているのかミルクを入れる。
少し濃い目に淹れているのできっと合うだろう。


「これはチーズ?」

「丸のがカマンベールで四角がゴルゴンゾーラ。三角はパルメザン」


生地を三つも作るのは面倒だったけれど、チーズを消費してしまいたかったから仕方ない。
金持ちの金銭感覚には未だに慣れず、イタリア旅行に行った両親が渡してきた大量のチーズのお土産。
そのせいでチーズ料理を作らなくてはならなくなり、もうしばらくは見たくないほどだった。

少しばかり遠い目をしている名前に司は笑顔でクッキーを食べ続けている。


「さすが名前だね。飽きが来ないようブラックペッパーや蜂蜜でどれも工夫がされてる。紅茶にも合って美味しいよ」

「それはどうも。……てか、そんな嬉しそうにされても。司さんならこれくらい簡単に作れるでしょうに」

「そうだけど……名前が作ったっていうのが重要なポイントだな」

「は?いや確かに私は滅多に他人に振る舞いませんけど言われるほどのものでも……」


怪訝そうに名前が淡々と言うと司は苦笑じみた表情を浮かべた。

珍しいとか味も重要ではあるけれど、異性の手料理というのは男にとって特別なものである。
それが気になる相手なら尚更。

まぁ、異性も同性も関係なく他人の手料理を食べる機会の多い遠月では今更だろうが……特に異性事に関心の薄い名前では気付きもしないらしい。
手強いことだと司は改めて思う。


「名前、今度の土曜日空いてるかい?」

「……午後からなら空いてますけど」

「なら少し付き合ってくれ。試作の味見をしてほしいんだ」

「何も私じゃなくても第一席の料理を食べたがる人は他にもいるんでは?」

「俺が名前に食べてほしいんだよ」


熱を感じさせるような眼差しに名前が僅かに息を呑んだ気配がする。

このまま意識してくれればいいのに。
頬一つ染めることなく了承の返事をした名前にそう密かに願う司が残っていたカップに口をつけると、先ほどよりもずっと甘く感じれた気がした。




――――――

おもちさんリクエスト夢でした。

遅くなって申し訳ありません!
そして甘……?と首を傾げてしまう出来ですみません……。
「傍観者」夢主の仕様として納得頂けたらと思います。

企画に参加くださりありがとうございます。
これからも当サイトをよろしくお願い致します!




叶亜