ツインズの襲来



ガチャリ、と玄関から聞こえた鍵が開く音。
それに「嗚呼、帰って来たかな」と1時間ほど前に出かけた恋人の帰宅だと思い、呉葉は読んでいた本から顔を上げた。

上げたのだが、


「……?」


首を傾げ、目を閉じて耳を澄ます。
荒くもなく、忍び足のように軽い足音が一つ……“二つ”。

この時点で臨也じゃないと気付いた呉葉は本を傍らに置くと身構える。

臨也の仕事柄、人から恨まれやすいのはわかっていた。
本人のいない間に侵入しようとする輩などたくさんいるだろう。もちろん、そんな真似をさせるほど臨也も甘くはないが。
けれど、実際に何者かが合鍵を使って家に入って来ている。
警戒するのは当然と言えた。


「あ、やっぱりいた!やっぱりいたよ、クル姉!!」

「良(そうだね)」

「……どちらさま?」


やけにハキハキした声で喋るセーラー服の少女と小さな声で呟くように言うなぜか体操服の女の子。
廊下に続く扉から覗かせる二つの顔はよく似ていた。

どうやら敵意や悪意はなさそうなので警戒は解くが、初対面であることには変わらないので疑問は消えない。


「初めまして!折原舞流っていいます!」

「折原……九瑠璃」


折原……“折原”ってもしかして……?
あまりにも聞きなれた名字に一つの予想を立てた呉葉にマイルと名乗った少女はにんまりと笑みを浮かべた。


「呉葉さん、せいかーい!私達はイザ兄の妹です!呉葉さんに会いたくて来ちゃいました!」


嗚呼、確かに面影はあるかもしれない。
キャラの濃さと最後の一言には触れず、呉葉は冷静に恋人の妹二人を観察する。
呉葉は3巻までしか知らないため、4巻に登場した臨也の妹の存在を知る由もない。
だが、妹だというのは本当だろうと観察の結果から判断を下す。

そんな呉葉の足元に膝を着き、囲うように双子の姉妹は近寄った。

ただそれだけなのに、なぜだか逃げられないような気持ちが呉葉を襲う。
先程までの危機感と種類が違うものが薄々と感じられて、年下女の子達に対して身構えた。


「イザ兄の彼女って初めて見たけど……」

「美(綺麗な人)」

「だよねー。イザ兄ってば、意外と面食いー」

「えーと、ありがとう?二人も可愛いと思うけど、」


段々近付いてくる顔に逃げたくても背中のソファが許してくれるはずもなく。


「!?」

「あー!クル姉、ずるーい!」


視線を逸らした瞬間に唇に触れた柔らかい感触。
それがキスだと気付いた時にはもう一度、今度はマイルからキスされていた。

いつの間にか押し倒していた双子が同じ顔で楽しそうに嬉しそうに笑う。

これは冗談でもなんでもなく、やばい……?
予期せぬ展開に呉葉の額からたらりと冷や汗が流れた。