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生きたいって思ったのは初めてだった。
生まれた意味がわからないのに生きていけないなんて、そんな弱音を吐くつもりはない。
けれど、存在の意義は生に縛り付けるための軛であり、枷でもあった。

軛なき世界で今までのように何となく生のような死のような生活を過ごすのか、
たとえ異世界で自由を制限される枷があったとしても初めて愛した人と共に過ごすのか。

選択に迫られた時、私は――……。





「ゲームに勝利した今、お前には元の世界に戻ることもできるがどうする?」


死神に問われた瞬間、抱き締めているその手により力が入った。
まるで呉葉を引き止めようとするように。幼い子供が言いたいことを伝えられず行動で示すような。

背中から伝わる一定の鼓動を目を閉じて感じる。
トクンッと速いのは緊張しているからだろうか。なんて他人事にも言えないことも思いながら呉葉はゆっくりと瞼を開けていく。
両手は臨也の手に重ねていた。


「私は、ここに残るよ。あっちにいても別に愉しいことなさそうだし」

「……そうか。ならば、俺はお前の幸せを願っているとしよう」

「死神のくせして幸せを願うわけ?変なの」


矛盾したことを吐く死神を笑ってやれば、『死』を纏った男は苦笑いを浮かべる。


「そう言うな。死神とはいえ、気に入った者の幸福ぐらいは願うさ」

「……死神に気に入られてもねぇ」


皆瀬みたいに自惚れでもなく、本当に愛されてたとしても笑えない。
味方なら心強く感じるかもしれないが、気に入られても不穏な気しかしないのはなぜだろうか。

微妙な顔を隠すつもりもない呉葉に死神は気分を害した様子もなく、ただ静かに背を向けた。


「次会うのはお前が今度こそ死ぬ時だろうな。その人間と共にできるだけ長く生きるといい」


そう言い残して死神は闇に溶けるようにして立ち去る。

死神が言うように、次に会うのは当分先になるだろう。
とはいっても、特に感傷に浸ることもなく事実として受け入れてると耳元に吐息がかかった。
くすぐったくて身を捻ると腕の拘束が強くなる。解放するつもりがないのは明らかだった。

諦めた呉葉は取り敢えず声をかけてみることにする。


「臨也サン?」

「……ねぇ、もう一回言って。もう一度聞きたい」


ここで何が?と尋ねるほど呉葉は鈍くなかった。
だが先ほどは勢いで言った感があるため、改めて言うとなると恥ずかしく躊躇う。

沈黙はなかなか言わない呉葉を急かすようで、渋々と口を開いた。


「……好き、」

「っ、俺も好きだよ」


学校の屋上で二人の影は近付き……