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「んー、いい天気……」
シャッとカーテンを開けた呉葉は窓から射し入ってくる朝日を眩しそうに目を細めて見た。
雲一つない快晴。
確かあの日もこんな天気だったはずだと記憶を遡り思い返す。
『玩具』たる皆瀬マナがこの世界に来た日も、こんな気持ちのいい晴れだったと。
窓辺から離れた呉葉は壁にかけられていたカレンダーに近寄り、ゆっくりと緩慢な動作で今日の日付を指でなぞる。
ニィ、と口元を歪める気配がした。
「今日で皆瀬サンがやって来てからちょうど1ヶ月……。泣いても笑っても今日でゲームが終わる」
ゲームと呼ぶからには勝者と敗者が出てくる。
敗者となってしまえば、死神との取引により待ち受けるのは死だ。
死を恐れるような恐怖心なんてどこにもないけれど、最後まで愉しみたい。
種はとっくに蒔かれている。後はその実が上手く咲くかどうか。
その結果が、つまらない結末に繋がることだけにはならないでほしいと思った。
制服の上からカーディガンを羽織り、1ヶ月前と比べてすいぶん伸びてしまった契約印を隠す。
「さて、行くかな」
いつもの格好でいつもと同じように玄関の戸に手をかけた袖口からは、黒い線の刺青が少しだけ覗いていた。
「あ、おはよ」
「……、」
「酷いなぁ。返事ぐらいしてくれてもいいんじゃない?せっかく朝早くから待ってたんだから」
マンションのエントランスを抜けた先に佇んでいた人物に、思わず呉葉は優等生の仮面を落としそうになった。
「私は待っててなんて頼んでいませ……もういいや。臨也サンに敬語使うのなんか嫌だし。
で、何で待ち伏せしてんの?」
仮面をかなり雑に脱ぎ捨て、呆れながら問いかける。
臨也は質問には答えず「取り敢えず行こうよ」と呉葉の腕を引いて、学生をちらほらと見かける道を歩いて行く。
何の話かは知らないが、遅刻しても嫌なので呉葉もそれには素直に従った。
「朝起きたらさぁ、何でか呉葉の顔が見たくなってね。でも、さすがに用もないのに出てきてもらうのもあれだったから待ってたんだ。ついでに学校まで送ってこうと思って」
「……へぇ、」
臨也はそれ以上何も言わなかった。
ただ無言で呉葉の手を握って学校に向かうだけ。
そして呉葉も何も言わなかった。
「……一応、礼は言っておく。送ってくれてありがとう」
しばらくして校門に着き、握られた手を振り払いながら呟くように言う。
周囲を気にしての小声なのかもしれない。
全身を黒で纏った臨也は学生だらけの校門前では目立ち、ちらちらと視線を感じる。
同じように目立ってはいけないと思った呉葉は軽く頭を下げると学生の中に紛れようと一歩踏み出した。
そして耳に届く微かな声。
「頑張ってね」
……詳しい時間は教えなかったはずなのにな。
苦笑しつつ、呉葉は最終決戦の場に着実に足を進めて行った。
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