※玖蘭優姫成り代わり
※原作既知転生




私は、愛されているのだと思う。
それが玖蘭優姫――元名字名前の見解だった。


「優姫?どうかしたの?」

「……ううん、なんでもない。おはなしのつづき、きかせて?おにいさま」


無知で無力な幼子を外界から守り、慈しんでいる。
そのことを名前は疑いはしない。
疑いはしないが、納得もしていなかった。

前世の記憶なんてものがなければよかっただろう。
それか今世の名前が『優姫』でなければ。

愛されているのは『優姫』だからで、『私』を見ているわけじゃないとどうしても思ってしまう。


「眠いなら寝ていいよ。僕がずっとここにいるから」

「ん……」

「おやすみ、優姫。良い夢を」


枢の手が優しく頭を撫で、穏やかな声に誘われるように微睡に落ちる。
それでも名前は、虚しさを消すことができなかった。
















「こんなところで何をしている」


両親のものとも、兄のものとも違う声に名前は抱える膝に埋めていた顔をそっと上げた。

――玖蘭李土。
見つめる紅と蒼の色違いの瞳には、長年の飢えを示す欲の色が浮かんでいる。


「……なにも」

「何も?なら、なぜここにいる。ここに囚われなくとも現実にはお前を庇護している者がいるだろう?」

「それは『優姫』であって、『私』じゃないもの」


その言い方に李土は訝しげに目を細めた。

名前が原作を読んでいた頃の李土の印象は最悪だった。
けれど、今は違う。もちろん李土の行為は到底許せるものではないが、少なくとも前世よりかは嫌っていない。
なぜなら、『吸血鬼』というのは本来『そういう』ものだと知ったからだ。

欲に忠実に生きる李土はいっそ清々しく名前の目には映る。
ただまぁ、これから起きるだろう事件をそのまま受け入れるほど好意は持っていないが。


「では、お前は何だ?玖蘭の姫よ」

「わたしは『名前』。『優姫』のかわりにうまれたこどもだよ……」


李土が意味を理解できなくてもどうでもよかった。
元より、期待などしていないのだから。

けれど李土は、名前の考えとは裏腹にふとどこか納得の表情を見せ、笑みと共に片手を差し出した。


「気が変わった。僕の手を取るといい。お前を愛してやる」


その手を蹲りながら茫然と見上げ、僅かに唇を震わせる。
困惑と期待が入り混じった目を揺らして。


「わたしは、おかあさまじゃないよ……?」

「そんなの知っている。言っただろう?『お前』を愛してやると」






君が来るまで待ち続ける






名前はその手を取った。

ずっと待ち続けた、『私』を見てくれるその人の手を。




――――――
君が来るまで待ち続ける」//ゆりさん