秋晴れの心地よい日照り。
意識の遠くでチャイムが鳴っているのが聞こえ、屋上でサボっていた希明は微睡みから目を覚ます。

足元にかけていた上着に腕を通し、伸びをすると上から呆れた声がかかった。


「女が無防備に寝てんなよ。襲われても知らねぇぞ」

「ご心配なく。人の気配には敏感な性質でね」


にべもなく返した希明は携帯を開き、時刻を確認する。


「アンタこそこんなとこにいていいわけ?部活あるんでしょ」

「……いいんだよ、別に。練習しようがサボろうがどうせ俺に勝てる奴はいねぇし」

「ふーん、」


顔を歪めて吐き捨てる青峰に希明の反応は薄い。

怒るわけでもなく、咎めるわけでもなく。
無関心といってもいいほどに淡泊な応え。

そんな希明に苛立ちを感じた青峰は「それだけかよ」と語尾を強めた。


「……逆に訊くけど、私に何て言ってほしいわけ?」

「は?」

「私はバスケ部でもなければバスケに詳しいわけでもない謂わば部外者。そんな私が何を言ってもアンタには響かない。慰めがほしいなら他の人に頼めば?」

「テメェ……!!」


ダンッと勢いよく飛び降りた青峰が希明の胸倉を掴む。

強面な印象が更に威圧的に迫るが、その程度で恐れる希明ではない。
表情を変えることなく、淡々と言葉を紡ぎ出した。


「何?事実でしょ。私はアンタが自分で選んだことをどうこう言うつもりはないし、そもそもそこまで興味はない」


一歩も引く様子を見せず、同じでありながら違う『青』を見据える希明。
あまりにもまっすぐな視線は全てを見透かすようで、青峰は頭にのぼっていた血が急激に冷えた感覚に陥りたじろいだ。

今は二年の秋。
全中二連覇を達成し、歯車が少しずつずれ始めた頃。
一番最初に才能を開花させた青峰にとって精神的に脆くなっている時期だろう。
それはわかっている。わかっているが、だからといって希明があれこれと手を焼く義理はない。

個々で接点があっても、相変わらずバスケ部としては無関係を貫いている。
原作に介入して改変してしまうことに躊躇いはないものの、積極的に変えていく気もなかった。


「てか、今の状況が辛くてつまらないならやめれば?」

「何で俺がやめなきゃなんねぇんだよ!他が弱いのが悪いんだろうが!!」

「なら、努力したわけ?他に責任を押し付ける前に改善しようと努力したの?」


強い奴と戦いたいならクラブチームに行くなり、高校生の練習に混ぜてもらったっていい。
同じ部活内だって強くなるよう教えてもいい。何せ他にキセキの連中だっている。

つまらないと言って部内の空気を悪くするぐらいなら、いっそやめてしまうのも一つの手だろう。


「自分で選んだことでしょ?だったらその責任ぐらいとれよ。嫌なら他人を待たずに自分で動きな」

「……」


緩んだ力に気付いた希明が胸倉を掴む手を振り払い、乱れた制服を整える。
もう用はないとばかりに屋上から出る希明を引き止めるものはなかった。

厳しいことを言った自覚はある。
けれども、心にもない慰めなどするなんて真っ平で。
無視しなかっただけマシだろうと希明は思う。

何気なしに放った言葉が後に影響してくるとは、この時の希明自身は気付いていなかった。