「で、アンタらの主は白雪に何してくれちゃったのかな」


ユリス島の鳥を連絡手段にするための考試が行われて数日後。
どうにも挙動不審な白雪を訝しむノアは、島から帰還した側近達に問いかける。

温度のない声音に視線を彷徨わせるミツヒデにノアは溜め息を吐いた。


「いや、そのだな……」

「別にいいけど、答えなくて。どうせ、何があったか想像できるし」


正確に言えば“知っている”だが。

ノアが持つ原作知識はここまでだ。
白雪とゼンが互いに想いを告げ、手を取り合ったところまでしか知らない。

その先がどう動くのかわからないし、仮に知っていたとしてもノアには関係のない話だ。
今まで自分の好きなように動いてきた。それはこの先も変わらないのだから。


「取り敢えず王子が戻るの待つか。白雪を追って森に行ったんでしょ?」

「さすがノア嬢。よくおわかりで」

「わかるっての。伊達に白雪の親友やってないし、王子のことも多少は理解してるつもり」


囃し立てるオビを軽くあしらい、壁に背を付けて寄りかかる。
思いの外疲れているようで、目を閉じれば今にも寝てしまいそうな倦怠感がノアを襲った。

そんなノアの様子に木々が声をかける。


「親御さんに何か言われでもした?帰って来てからずいぶん忙しくしてるみたいだけど」

「あー……忙しいのは事実だけど、親は関係ないよ。てか、城には一応毎日いたしね」


グレイシアからノアが帰って来てからというもの、なかなか城で見かけていない。
それとなく兵に訊いてみたものの、やはり青髪を見かけた者はいないとのことで城にも来ていないものだと思っていた。
けれども、ノアの言葉から考えるとそれは違うようで、だとすれば見かけなかったというのはどうにも可笑しい。

白雪同様、珍しい髪色を持つ彼女はどうやっても目立ってしまう存在だというのに。

不可解さに更に言葉を重ねて問いかけようとした矢先、窓から見えたゼンが帰って来た姿にミツヒデが声を上げ遮られる。
一気に視線がゼンへと集められ、ノアとの話は中断してしまった。


「俺はこの先も、この国で白雪と共にいられる道を行く。そう望んでいると告げてきた」

「あの子の方は……」

「手を、とってくれたよ」


きっと二人の行く道は困難が付き纏うだろう。
だが、この二人ならば乗り越えられると思ってノアは微かに笑む。


「白雪にも言ったけど、何か困ったことがあれば言ってよ?面倒事は勘弁したいけど、白雪が関わってるなら全然構わないし。もっとも、白雪を悲しませるようなことしたら容赦しないけど」

「ノア、お前な……」


相変わらずの調子に苦笑いが漏れる。
それでも頼もしいと感じるのは、ノアが本当に親友のことを大事にしていると知っているからだった。

和やかな雰囲気が流れる中、ノアが不意に佇まいを直した。


「ノア……?」


ピリッと電気が走るような空気が辺りに漂う。

背筋をまっすぐに伸ばして立つ姿は凛としており、ノアが王族の生まれであることを実感させた。
髪を背に払う仕草にすらどこか気品があって無意識に目が追ってしまう。


「アンタ達に報告したいことがある」

「……それは最近、お前を見かけないことと関係あるのか?」

「一応。……本当はもっと時間を置いて正式な場でするべきなんだろうけど……まぁ、アンタ達と知らない仲じゃないしね。付き合いがある以上、先に報告すべきかと思って」


そこまで言ってひと呼吸し、僅かな間を開けて告げる。


「第一王子と、婚約することになった」

「……え、」


零れた声は誰のものだったか。
驚愕のあまり言葉すら出て来ない四人を順に眺め、この後の質問攻めを予想して面倒そうに溜め息を吐いた。