ミートマスターと呼ばれる水戸郁魅との食戟を終えた帰り道。
田所と極星寮に向かう幸平の胸裏にふと二人の少女の姿が浮かぶ。

一人は薙切えりな。神の舌を持つ同級生ながら十傑の席に座る少女。
そしてもう一人は編入試験の際も先程の食戟の時もえりなの隣りにいた、青い髪の美しい少女。

その名前は……


「そういや、薙切の隣りにいたのって誰?あの青い髪の……」

「え、雪城先輩のこと?」


恐る恐るというように田所が言うことに幸平は頷く。
雪城という名か知らないが、青い髪の少女を指すのなら合っていた。


「えっと、雪城希明さんっていって年は私達の一つ上の二年生。薙切さんとは遠い親戚の幼馴染らしいよ」

「ふーん、雪城先輩か。……で?あの人も十傑なのか?」

「十傑……ではないような……?」

「?」


はっきりとしない言葉に首を傾げる。
十傑かそうでないかなんて簡単に答えられると思っていただけに不可解さが纏った。

そんな幸平に田所は少し困ったような顔をして言い添える。


「十傑の席に雪城先輩の名前はないよ。でも『特席』っていう十傑と同等の地位を持っているの」

「それって十傑とどう違うんだ?」

「私にもよくわからないんだよね。一色先輩に聞いた方がいいかも」


よくはわからずとも十傑と同等ということは実力も同じくということで。
上を目指す幸平としては無視できない存在だったのは確か。

編入試験を思い出す。
あの時、彼女は幸平の料理を口にしなかった。
いくらえりなが反応しようとも興味すら示した様子はなくて。

いつかえりなに「美味い」と言わせたいが、それは希明に対しても思う。
あの無関心で無感情な瞳を自分に向かせたい。いや、向かせてやる。

決意を改めた幸平は知らない。
そもそも希明は十傑にも特席にも拘りはなく、料理に対する情熱も低いことも。
希明の関心を引くのは想像以上に困難であると、幸平はまだ知らないでいた。










「……は?一年の合宿に?」


面倒さを隠さない低い声に、司は冷や汗を流しながらも前言を撤回することはしない。
それはすでに決定事項であり、たとえ希明が嫌がっても変更できないからだ。

だが、嫌がるとわかっていて強制するのは避けたかった司は譲歩案を提示する。


「あくまで同行するだけであって指示に従う必要はないよ。希明はただ様子を見てればいい。それに合宿には数多くの卒業生が招かれている。君としても関わりを持つのは悪いことではないだろう?」

「様子を見るだけなら私じゃなくていいと思いますけど」

「そんなことはないさ。希明は客観的に見ることに長けているからね。秋の選抜のこともあるし」


随分と買われているものだ。
皮肉混じりに思うも、強ち間違っていないのは自覚していた。

客観的に実力を分析するのは希明の得意分野。
選抜に関しても一任されるだけの実績と実力を持っている。

料理することに関心はあまりなくても伝をできるだけ持っておきたい希明は司が言うメリットを否定できない。


「……わかりました。同行はします。ただ合宿中の行動は好きにしますから」


原作に関わりたくなかったのに。
諦めを溜め息に溶かして希明は吐いた。