6年生になっても生活自体に何の変化もないように見えた。――表向きは。

ノアはいつものように取り巻きを周囲に囲んで食事をしているリドルを盗み見る。
目はリドルの手元に向いており、そこには長期休暇前にはなかった指輪が填まっていた。


「ノア?具合でも悪いの?全然食べてないけれど」

「いや、そうじゃない。大丈夫」


心配そうなシェリルに言葉を返し、刺したまま放置していたフォークを口に運ぶ。

マートルが死に、犯人としてハグリットが退学になり、当の黒幕はホグワーツ功労賞を得て讃えられた。
そして彼は休暇中に母親の生家を訪れ自分の出生を知り、父親と祖父母に手をかけて伯父に全ての罪を着せた上に家宝の指輪を奪っている。

どうやら、この世界はノアの知る原作通りに進んでいるらしい。
まぁ、変化を起こそうとしていないのだから当然かもしれないが。


「失礼、」


もうリドルを見ることなく自分の食事に集中していると、不意に顔に影がかかり隣りに誰かが立った。

黒い髪に灰色の双眸。
スリザリンカラーを揺らすその顔立ちは、まだ幼さを残しながらも整っていた。


「あら、あなたは確か……」

「オリオン。オリオン・ブラックです。初めまして、ミス・アディントン?」

「シェリルでいいわよ。それで、オリオン?何か用かしら?」

「実はノアさんにお話しがあるんですが……この後、少し時間を頂けませんか?」


意図して声をかけずにいたというのに、どうもそんなささやかな抵抗も意味がなかったようで。
ちらりと窺う目にノアは諦めて顎を引いて頷いた。

了承を貰ったオリオンはそのまま居座ることはせず、時間と場所だけ告げて「お食事中に失礼しました」と礼儀正しく去って行く。


「彼、ブラック家の嫡男でしょう?知り合いだったの?」

「知り合いというか、親戚。曾祖母がブラック家の出なんだよ」


酷く面倒そうに答えて空になった皿にフォークを置いた。

事実、面倒なことになったといってもいいだろう。
ブラック家の人間ということは、当然ノアの血筋を知っている。
その上、純血主義ともくれば話の内容は想像がついた。
オリオンとほぼ同等の立場であるアブラクサス・マルフォイはなかなか喰えない人物だった。
その彼よりは年下で感情を隠すのが下手なオリオンの方がまだ、話しやすくはあるのだけれど。


「……ノアって変わってるわよね」

「自覚はしてるけど、一応訊いておく。どこが?」

「トムの時もそうだったけど、カッコいい男の子に話しかけられたのに嫌そうなんだもの。恋愛事に興味ないのは知っているわ。でも、もう少し関心を持ってもいいんじゃなくて?」


シェリルに、彼らがノアに近寄って来た理由が恋愛とは程遠い、暗い底沼のような闇についてだと教えたらどんな反応を取るだろうか。
裏事情をシェリルに一生教える気はないノアは、自分の中に浮かんだ疑問をバカらしいと一蹴する。

何も知らずにいれるのなら、それはそれで幸せなことだと思って。


「残念ながらその予定はないかな。……少なくとも、リドルやブラック相手には絶対に」


『穢れた血』と蔑んだリドルと侮蔑の色を孕ませていたオリオンを思い出しつつ、囁くように言葉を零した。