「お前、何者だ?」

「ベポから聞いてないわけ?……ただの旅人だけど」

「ただの旅人が海賊と“友達”になるわけねぇだろ。それなりに腕が立つとベポから聞いた。……賞金稼ぎか?」


見るからに華奢で戦闘には不向きそうな容姿をしているノア。
けれど、この世界にはそんなふうであっても強い人間など腐るほど存在する。

賢い人間であれば警戒するのは当然で、ローが探りを入れるのは当然のことだった。


「生憎、金銭には興味がなくてね。まぁ、必要に迫れば適当に潰すけど、生業にしてるつもりはない」

「ほお……なら、目的は何だ。女一人で旅をする危険を冒してまで何がしてぇ」


目的。……この海に出た、目的。
その言葉にノアはスゥ……と目を細め、ローの剣呑な視線を見返す。

ノアがこの世界で生を受けた島は至って平和な島だった。
争いもない、近くに海軍の基地があるおかげで海賊も不用意に暴れたりしない平和な島。
そこの割と裕福な家庭にノアは生を受けた。

文句なんてつけようがないほど優しく育ててくれた家を、島を出てまで旅を選んだ――理由。


「世界を見たい。自分の目で世界を見て、自分の視野を広げたい。……そんな理由じゃダメなわけ?」


自由に生きたいと望むことの何が悪い。

誰かに定められた道を歩くなんて真っ平で、自分の進む道は自分で決める。
それだけは何があろうと譲らない。


「わかったらいい加減離せ」


未だ掴まれている手を振り払おうとするが、逆に更に力を込められ訝しげにローを見上げる。

ローは、笑っていた。
残虐と呼ぶには相応しい、ニヒルな笑みを口元に浮かべている。

それに悪寒が走ってしまったのは仕方ないと思う。
恐怖を感じたわけではない。怖くなど全くないのだが、嫌な予感が刺激して冷や汗が垂れた。


「いいな、お前。気に入った」

「は?……って、ちょっと!」


海賊ってみんなこう強引なんだろうか。
引っ張られ、港に向かう足並みに抵抗しながらノアは忌々しげに舌打ちをした。

そんな二人の後を状況をよく理解できていないだろうベポが「キャプテンもノアを気に入ったんだねー」などとニコニコと笑ってついて行っていたのだった。