「ねぇ、ノア。一緒にやらない?前から君の手際の良さを近くで見たいと思ってたんだ」
ひくり。胡散臭い笑顔全開で話しかけられた内容に頬が引き攣ったのは仕方がないと思う。
けれども、胡散臭いと感じたのはノアだけのようで、いつもペアを組む友人は顔を赤らめて席を譲ってしまった。
去り際にノアに向けて飛ばされたウィンクに頭が痛くなる。
「……私、了承した覚えないんだけど」
「君の友人は行ってしまったし、今更変えるなんてできないと思うよ」
肩を竦めるリドルに促されて周囲を見回せば、すでに始めているところが多く。
嵌められたと気付いてもすでに遅かった。
ちらちらとあちらこちらから感じる視線にうんざりしながら、取り敢えず材料の一つに手を伸ばす。
こうなったらさっさと終わらせて魔法薬学が苦手な友人の元に行こうと決めて。
黙々と進めるノアにリドルは誰にも気づかれないよう笑う。
「へぇ……さすがだね。スラグホーン先生が褒めちぎるわけだ」
「アンタに言われても厭味にしか聞こえない」
「本心だよ。少なくとも僕はそんなに早く緑色に煮詰められないからね」
周りが苦戦している中、指示通りの色に変わった鍋の中身。
トロリとした光沢のある緑は文句のつけようがない。
興味深げな目つきに内心、失敗したと後悔した。
「……そんなに僕に関わるの嫌?」
刻んだハナハッカを鍋に放り込んだリドルをかき混ぜながら横目で見る。
感情を落とした無表情。
きっと他人からは真剣な表情に見えるのだろう。
器用なものだと感心しつつ、やはり消えない視線に仏頂面になる。
「アンタといると目立つ。だから嫌だね」
「目立つの嫌い?」
「嫌いだし、特にアンタの場合は女子の妬みも買って面倒」
妬み、ねぇ……。
ノアに聞こえぬよう呟いて、リドルはゆるりと辺りに視線を走らせた。
確かに自分達に向けられている目は多い。
けれどそのどれもが憧憬などの好意的なもので、ノアの言うような負の感情は見当たらない。
目立つのが嫌いだと言う彼女はきっと知らないのだろう。
自分が自分で思う以上に有名であり、リドルとお似合いだと囁かれていることを。
「まぁ、でも、やめてなんかあげないけどね」
完成した魔法薬学をビンに詰めて提出しに行くその背を、ノアは苦々しげな表情で見送るしかなかった。