時間的に煮込み料理も手間暇かかるものはなし。
人数を考えればちまちま一人分ずつ作るのも面倒臭い。


「お待たせしました」

「ほぅ……」

「これって……!」


そんなことを踏まえて希明が作ったのは小さな二つのバーガーだった。
ただしバンズの代わりに焼いた米飯を使用しており、片方は肉は入っていないもの。
所謂『ライスバーガー』と呼ばれるものである。

高級志向が強い遠月であり得ないファーストフード。
それを高級料理を数多口にしてきたプロに出す辺り、かなり挑戦的な品であることに間違いない。
しかし給仕する希明は緊張も不安の色もないいつも通りの無表情で、それは希明が料理に自信があることの裏付けになった。


「ジャンルに拘りがないとは聞いてたが、まさかライスバーガーを出すとは……」

「小ぶりで可愛いですね。どっちから食べようか迷っちゃいます!」


意外性に驚きつつも迷いなくバーガーに手が伸びる。

手掴みで食べることを想定されており、手拭きが予め用意してあった。
パンではなく焼いた米飯のためにベタ付きはあるが、手に残るほどではない。
三口もあれば食べ切ってしまいそうな小ささで、大口を開けずとも齧り付くことができる。

それぞれが選んだバーガーを手に取り、一口。
途端、息を呑んだ声にもならない驚嘆が上がった。


「――美味い!!」

「バンズとなる米飯の焼き加減が絶妙であり、挟むパティと目玉焼きに絡む和風ソースが絶品だ。醤油ベースのためにくどさもなくさっぱりした後味になっているな」

「こっちはアボカドの濃厚さとイクラのしょっぱさがちょうどいい塩梅になってます!」

「卵は卵でも……魚卵か。確かに鶏卵とは指定してなかったな」


口々に述べる感想を聞きながら希明も食べてしまおうと椅子に座る。
普通なら客が食べ終えるまで待つのが当然だが、今回は希明の夕飯も兼ねているのでそこは大目に見てもらえるだろう。

自分用のバーガーを手に取って齧り付き、咀嚼しながらまあまあの出来だと自己評価した。


「なぁ、雪城。パティに使ってる肉……ヒレ肉だな。何でこれを使った?」

「……夕飯とはいえ、かなり遅い時間ですからね。低カロリーの方がいいかと思いまして」


カロリーを抑えるのに肉に豆腐を混ぜるのも手だが、バーガー自体が小ぶりなため肉の味をしっかりと出すには低カロリーなヒレ肉が無難。
アボカドはカロリーが高いのだが、栄養価も高く量的に気にするほどでもない。

バーガーが小ぶりな理由は日中に講師として料理を食べているため、それほどお腹が空いていないと判断してのこと。
ちなみに昼食以来何も口にしていない希明は少し大きめのものになっている。

今の時分に相応しい卵料理……それを完璧に踏まえた品に満足そうな顔が並んだ。


「バンズにパンではなく米飯を使ったのもカロリーを考えてか。味だけではなく健康にも気を遣ったわけだな」

「まぁそれもありますけど……単純に卵にはご飯だと思ったので」

「なるほど。卵かけご飯とイクラご飯か!確かに単純だが外さない組み合わせだ」


発想としては陳腐でも形になった料理は単純な品にはなっていない。
逸品に至るまでの技術はその肩書きに見合うもの。

プロから絶賛されながらも喜び一つ見せない無表情が黙々と自分の食事を進める。
どうでもいいと切り捨てているわけでもないが、拘って執着するものでもないと放っていた。
他者からの評価にそれほど興味はなく、自分が事実として納得している以上は必要とは思えない。

淡白すぎる反応に苦笑う何人かが細く息を吐いて、静かな夜は波乱を孕みながら過ぎていく。