僅かでも浮かんだ希望をバカにして熱を冷やしたモノクマだが、現れた理由はただそれだけではなかったらしい。
能天気に笑う葉隠も突っかかって来る大和田も無視したモノクマが本題に無理矢理話を持ってくる。

数日経っても殺人が起きないことに退屈だとつまらないと俯いた。


「な、何を言われたって僕らは人を殺したりなんか……」

「あ、わかった!ピコーン、閃いたのだ!」


震える声を出した苗木も無視したモノクマがパッと明るく言い放つ。

嫌な予感がした。
閉じ込められて殺人を推奨されて、それでも何とか均衡を保っていた糸をぷつりと切り落とされるような。

何をモノクマが言い出すかわかってしまった希明は表情を険しくさせる。


「ずばり“動機”だよ!うぷぷ、だったら簡単!ボクがみんなに“動機”を与えればいいだけだもんね!」


軟禁状態であって異常な状態であっても直接的に危害を加えられたわけじゃない。
何もしなければ大丈夫だと知っていて、いくらバカにされようと助けが来る可能性がゼロでないとわかっていて殺人というリスクを背負える人はそういない。
『ここから出たい』というのは立派な動機になっても、人を殺してまでというデメリットを覆すだけのメリットではなかった。

モノクマが用意したという動機は『人を殺してでも出たい』と思わせる代物なのだろう。


「動機だぁ……?どういう意味だッ!」

「ところでさ、オマエラに見せたいものがあるんだ!」

「話変えんな、コラァァ!!」


吠える大和田をスルーして勝手に話を進めるモノクマは辛辣だが、関わるのも面倒で無視したい気持ちもわかるから複雑だ。


「オマエラに見せたいのは、ちょっとした映像だよ……あ、違うよ。18禁とかアブノーマルとかじゃないよ!本当に、そういうのじゃないんだからッ!学園の外の映像なんだってば!」

「外の映像、ね……」


よりにもよって、と思う。
動機とするからにはいくら罠だとわかっていても、乗らずにはいられない。
何しろここにいる全員は外の世界が気になるのだから。

外の何の映像か問う苗木に、見てからのお楽しみだとモノクマは笑う。
学園の“ある場所”に行けば見られるようになっていると。

だったらすぐに確認しようと口にした霧切が「でも、」と鋭い視線をモノクマに突き刺した。


「その前に聞かせてもらえる?あなたは何者?どうしてこんなことをするの?あなたは私達に何をさせたいの?」

「ボクがオマエラに……させたいこと?あぁ、それはね……絶望……それだけだよ……」


ニヤリと笑って答えたモノクマは後のことが知りたければ自分達の手で突き止めろと言う。
学園の謎、真実を追い求めることを止めやしない、むしろ面白い見世物になると嗤い去った。

自由行動を許すと記載された校則を肯定するどころか推奨する辺り、やはり追求しても絶望しか残されていない気もして希明は霧切のように前向きには捉えきれない。


「されど……学園の外の映像とは何のことだ?気に掛かるな……」

「よぉし!じゃあ、ここは……!おう、苗木!ちっと調べてみてくれや!」


大和田が部屋をぐるりと見回して、苗木に目を止めると笑顔で言い放つ。
扉の近くに立っていたからという理由。
そんな理不尽にも思える理由に苗木が不満そうな顔を浮かべれば、癇に障ったらしい大和田が表情を凄ませて大声を上げた。

今にも殴りかかりそうな雰囲気。
すでに一発受けていた苗木が渋々了承した時、カタンッと希明が席を立つ。

そのまま苗木の横を通って出て行こうとする希明を「ちょっと!希明!?」と江ノ島が慌てて引き止めた。


「あんたどこ行く気!?今から映像を確かめるんじゃないの!?」

「確かめるよ。だから行こうとしてんだけど」

「いやでも、それを探しに行こうと苗木が……」

「映像っていうんだから視聴覚室でしょ。ここで待ってても時間の無駄」


次点で各個人の部屋だが、予測が立っているのに他人に任せて待つのは面倒で。
そう言うと大体の人は納得したようで希明に後に続いて立ち上がる。

向かった視聴覚室には希明の予想通り、各個人の名前が明記されたDVDが用意されていた。