※賢者の石





青い髪が視界の隅を横切った瞬間、心臓が跳ねたのは気のせいではないだろう。


「ねぇ、見て!ユキシロ先生よ」


ハリーの視線の先を追ったハーマイオニーが声を上げる。
その顔は憧れの人に出会ったかのように赤く色付き、うっとりとした目つきでその人を見つめていた。

ビスクドールじみた美しい容姿は否が応でも目立ち、遠目からでもすぐに気付くことができる。


「ユキシロ先生の授業は三年生からしか受けられないのよね……。あぁ、早く三年生になれないかしら」

「おいおい、入学したばかりだっていうのにもう三年生?冗談だろ」

「冗談なのはあなたの方よ、ロナルド・ウィーズリー。“あの”ユキシロ先生よ?」


信じられないとばかりに言うハーマイオニーにハリーとロンは顔を見合わせた。
ハーマイオニーがそこまで言う理由が二人には思いつかない。


「……まさかとは思うけど、知らないの?」

「知らないね。一応言っておくけど、ハーマイオニー・グレンジャー。君の知ってることが必ずしもみんなが知ってるとは限らないんだぜ」


呆れたような口調にムッとしたロンが言い返せば、ハーマイオニーは心外だと眉をひそめる。


「言っておくけど、有名な話よ。魔法使いなら一度は聞く話だわ」

「へぇ、それで?あの先生は何で有名なのさ」

「……“不老の魔女”としてよ」


ハーマイオニーの言葉にハリーとロンは驚いて思わずノアに視線を向けたが、そこにはすでに美しい青の姿はなかった。

不老不死は人にとって永遠のテーマだというが、それを実現させた者はそうはいない。
だが、その半分を現実にしている。

あの美しい容姿を保つために不老になったというなら納得できるような話だが、けれどそれはあの人のイメージには違和感がある気もした。
排他的な雰囲気もあって話したことこそないものの、容姿というものに興味はないように見える。


「ちなみに、不老は先生の意志ではないわ。とある魔法使いと戦ってその代償に受けた呪いで不老になったみたいね」

「……その魔法使いって、」


ハリーが口を挟むと今まで饒舌だったハーマイオニーがなぜか一気に口を噤んだ。
顔色も悪くなり、答えるのを躊躇うように眉を寄せている。

そのただならぬ様子に一つの予想がハリーの頭に浮かび上がった。


「……“例のあの人”よ」

「「!?」」

「どちらかというとこっちの方が有名かもしれないわ。当時、全盛期である闇の帝王に大打撃を与え、対等に戦えた唯一の人だったらしいの」


その衝撃的な事実は言葉を失わせるのに十分すぎて。

すごい人。
そんな単純な言葉では言い表せないと理解しながらも、そう思うしかその時の彼らにはできなかった。