「そう、ペトラ達が……」

「はい……」


顔見知りの兵士の訃報にノアの目が伏せられる。
けれど、それは一瞬のことですぐさま切り替えたように前を向いていた。

人が死ぬということは悲しい。
他者への感情が薄いノアでも思うことはあるし、慣れていいものではないだろう。
だが、今はその思いに浸って引きずる時ではないのはわかっていた。

報告を受けた上で情報を整理し、今後の行動を検討する。
……とはいっても、ノアの行動は制限されてしまっているのでできることなどほぼないのだが。


「ノア、起きたか」

「おかげさまで。で、何かあった?」

「いや、状況に変化はないな。そろそろお前が起きた頃じゃねぇかと来ただけだ」


扉が開けっ放しだったのをいいことにそのまま病室に入って来たリヴァイ。
察しの良い部下達はリヴァイがノアに話があるのだと気付き、邪魔のないように無言で退室していく。

最後の一人がノアとリヴァイに一礼して扉を閉めると、二人だけの空間ができあがった。


「……ずいぶん無茶をしたらしいな」

「アンタも新人二人を助けるために無茶したって聞いてるけど?」


見た感じこそ何でもないが、歩く際に片足を少し引きずっていたのをノアが見逃すはずもない。


「俺とお前じゃ差があるだろう。俺は足一本で済んだが、お前の場合、打ちどころが悪けりゃ死んでた。違うか?」

「……否定はしないけど、生きてんだから問題ないでしょ。仮に後遺症があったとして後悔しないだろうし」

「……顔まで傷を付けやがって、」


リヴァイの伸ばした手が頬を覆うガーゼに触れる。
ぴりっとした痛みがあるが、打ち付けた際に擦っただけなのだからすぐに治るだろう。
跡も残らないらしいのだから処置が大げさなだけだ。


「すぐ治るし、大体私はそんなの気にしないって」

「…ノアよ、」


名を呼ばれ、頬の手が上を向くように添えられたことでリヴァイと目が合う。
じっと瞳を覗き込まれる状況に違和感を感じ、何かと問おうとした瞬間、流れるような自然な動作でリヴァイが動いた。

普段ではありえないほどに近付いた顔。
吐き出そうとした言葉が出口を塞がれたことによって音になることはなく。
額にかかった前髪と微かな呼吸、そして唇に触れる熱の柔らかな感触だけが伝わった。

あまりにも当然とばかりの動作に抵抗を忘れ、されるがままに受け入れていたノア。


「……どんなに強くたってお前は女だろう。それを忘れるなよ」


付け加えるようにリヴァイの口から零れた声は掠れていて。

自分の性別を忘れていたわけではない。
だが、そこでノアは目の前にいる人間が『男』なのだと改めて認識することになった。