さて、どうしたものか。
ノアは淡々と馬を走らせながら思案する。

カラネス区の門から出発し、旧市街地を抜けて数分。
予定通り部下の数人を連れて壁外調査に参加し、配置は正確に決めてはないが左右どちらの翼側にも行くよう指示しておいた。
エレンの抑止力兼護衛の一人ともなっているノアはリヴァイ班と共に中央後方にいる。

もちろん強制でないので好きに行動したところで咎められはしないのだが、ノアとしてはだからといっても動きずらいところだった。


「ノア、お前はどうする?」

「……様子見も兼ねて行っておきたいとこだけど、部下に任せてるしね。今回ばかりは大人しくここに残るよ」


リヴァイの問いにそう答えれば、エレンやリヴァイ班の何名から無意識の内だろう。安堵の息が漏れる。
実力・立場共にリヴァイと並ぶノアが一緒にいることで齎される安心感が倍増といったところか。
壁外で安全な場所など一切ないが、それでも気持ちの持ち様は大きく異なるに違いない。

そんな機微を察しはしても無言を貫くノアは、他人に頼ることを厭うているけれどそれを一々指摘する気はなかった。


「特務隊の連中は今回何人いるんだ?」

「私含めて五人。顔は全員アンタが知ってる奴だよ」

「少ねぇな、相変わらず。前回より減ってんじゃねぇか」


そればかりはノアにも何とも言えず、リヴァイの視線に肩を竦めて応える。
メンバーの少なさに文句を言いたいのはノアも同じなのだから。


「……」


リヴァイとの会話を最後に無言で馬を走らせるノアは周囲に警戒を張り巡らせながらも無表情を歪めていた。

順調といえば順調で予定通りである。
だが、安堵も楽観視するにも情報が圧倒的に足りない。
その上、ノアは自分の中で警鐘が鳴っているのを感じていた。

とはいってもそれを表に出すことはなく、表情に険しさがあっても僅かで周囲に悟らせるような真似はない。
ちらりと確認したエレンの表情には心配はあるが焦りは見えず、それは現在の状況に関してこの場で一番無知だからだろう。


「口頭伝達です!!」

「!」

「右翼索敵壊滅的打撃!右翼索敵一部機能せず!以上の伝達を左に回してください!!」


ペトラが伝達へと離れてすぐに背後で黒の煙弾が立ち上る。

呆れたように巨人の侵入について漏らすリヴァイに内心で同意しながら、どうにも情報が後手に回っているらしいと確信した。
いくら奇行種とはいえ、ここまで深く陣形に喰い込んでくるのは珍しすぎる。


「……いよいよ面倒になってきたな」


壁外に出る前にエルヴィンと散々話し合ったことを思い返す。
最悪の状況も考えて作戦を立てたものだが、今回のはその中でも最も確率は高かったが面倒さも高いのもあって当たってほしくはないと思っていたもの。

溜め息を吐くように呟いた言葉は煙弾の音に紛れて掻き消された。