どうしてこうなったのだろう。 手に紙袋を持ったとある女性ににじり寄られている名前は、仮面の内側で疑問を抱きつつ冷や汗を流す。 ここ数日――今日とを振り返ったところでこんな状況に陥ってしまう要因がまったく思いつかない。 いつもの冷静で狡猾な思考も鳴りをひそめ、ただただ名前は慌てた様子で現状を回避する方法を考える。 ――事は、数時間前に遡った。 「あれ、臨也サン?」 学校が終わり、校門をくぐったところで視界に入った恋人に名前は首を傾げながら声をかけた。 臨也が学校終わりの名前を待ち伏せすることなどざらにあるが、それは事前に約束しているし、そもそも確か今日は仕事があるから会えないんじゃないのか。 何か用があればメールで済ませればいいのにわざわざ待ち伏せているという事実が名前の疑問を解消させずにいた。 「やぁ、名前。お疲れ様。 それと突然だけど、今からデートしない?相手方が急遽用事が入ったみたいで今日の仕事がなくなってさ。代わりの仕事入れてもよかったけど、名前に会いたかったし。で、どう?」 「本当に突然だね。それに相変わらずのマシンガントークだし。まぁ、いいけどさ」 淡々とした口調とは逆に、名前の表情が穏やかなのを見て「そうこなくちゃ」と臨也は手を取っていつものように繋ぐ。 性格が歪み捻じれ曲がっている名前と臨也だが、デートとかこういったものは案外普通で。 どこにでもいるカップルのように雑貨屋を見て回ったり、洋裁店で相手の服を互いに見たり、途中でアイスを買って食べたり。どこにでもあるようなデート。 そんな二人の様子は騒がしい池袋の街に溶け込んでいた。 サンシャインシティの前を通りかかった辺りだろうか。 せっかくだから水族館にでもと考えていた二人に明るい声がかかったのは。 「イザイザに名前ちゃんだ。やっほー!」 「いつ見ても仲睦まじいっすねぇ」 ここまではよかった。 けれど、ここから可笑しな流れへと変わっていった。 「あ、そうだ。二人にお願いがあるんだよね!」 狩沢のにっこりとした笑みに思わず頬を引きつらせてしまったのは仕方ないと思う。 そして有無言わさず臨也と引き離され、連れて行かれるままに近くの更衣室に押し込まれて――今に至る。 「えと、狩沢さん……?本当にこれ着るんですか?」 「そうだよー。名前ちゃんスタイル良いからきっと似合うよ!」 ……それは何て反応を返せばいいんだろうか。 手渡された白い衣装を手にもう苦笑いしかできない。 ものすごく逃げたいけれど逃げれるはずもなくて、どうにでもなれという諦めから力を抜いてされるがままになった。 「できた!見て見て、名前ちゃん。すっごく綺麗だよ!」 テンションの高い狩沢に促され、鏡の中の自分を見つめる。 一言で言えば白のワンピース。 けれど背中は大きく開いていて、髪はアップされている。 最後にと被せられたベールを加えればいくらコスプレとはいえ、名前にも見覚えがあるものだった。 そういえば“二人に”お願いがあるって……。 まさか、とこの格好と言葉にある予想が立った名前を余所にカーテンの向こうから遊馬崎の声がかけられる。 「準備できたっすかー?」 「ばっちりだよ、ゆまっち!ほら、行こう、名前ちゃん!」 「えっ、ちょっ……待って……!!」 制止も虚しく開けられてしまったカーテン。 その瞬間、開けた本人である遊馬崎の感嘆の声が聞こえ、臨也が硬直した気配がした。 固まってしまったのは名前も同じで、純白の花嫁姿を晒しつつ白いタキシードの……花婿姿の臨也を凝視する。 「名前……?」 恐る恐る問いかける臨也に何て言ったらいいかわからず取り合えず俯く名前。 互いに黙ってしまった二人に焦れたのか、狩沢がどこから赤い糸を取り出して急かした。 「二人共、指出して。小指!」 「はい……?」 素直に求めに応じた名前と臨也の小指に括りつけられた赤い糸。 蝶々結びにしたそれは、二人を結び繋げる。 まるで運命の赤い糸のように。 赤い糸の憂鬱 「なんかもう、疲れた……」 はしゃぐ狩沢と遊馬崎の隣りで、一気に圧し掛かった疲労と気恥ずかしさに名前はしゃがみ込むしかできなかった。 ―――――― アリスさんリクエスト夢でした。 ワゴン組って言ったら取り敢えずコスプレかな?から始まり、でもデートも書きたいと思い、いいや全部書いちゃえ!となった結果がこれです。 コスプレがウェディングドレスだったのは臨也と一緒にできるものがそれしか思いつかなかったからです。……ちょっと、ドレスの描写がお粗末だったのが悔しいですね。 企画に参加くださりありがとうございました! 叶亜 |