※バッドエンド




何がいけなかったのかなんて、今更でどうでもいいことに成り下がってしまった。


「あれから何日だっけ……」


覇気のない、全てを諦めてしまったような声が孤独感のある部屋にこだまする。

少しでも身動ぎすれば、手足にかけられた枷が音を立てた。
それがどうも耳障りで聞きたくなくて、でも耳を塞ぐには腕が重すぎる。

ここ数日で、名前は諦めることに慣れていた。



「名前が悪いんだよ。名前が俺から離れようとするから」



目を閉じればあの日のことを思い出す。
臨也の瞳は、子供が母親に縋るようなそれだった。焦燥の滲んだ瞳。
幼馴染の名前でも見たことがなかった余裕のない表情。

次に目を覚ました時すでに手足の拘束があり、陽の下に出ることを許してくれなかった。
けれど、臨也は名前に乱暴はしない。あくまで優しく、まるで甘やかすように名前をここに繋ぎとめた。

仕事で側にいられない時も臨也は申し訳なさそうな顔をして、早く帰ってくることを約束してから出かける。


「ただいま、名前」


……ほら、今日みたいに。

臨也は着ていたファーコートを脱ぎ、寝転がった名前の横に膝を着いた。
そっと手を伸ばし壊れ物を扱う仕草で頬を撫でる。


「俺がいない間、何かあった?」

「……ないよ、何も」

「そっか」


殊更に安堵の色を浮かべた臨也は、頬を撫でていた手を滑らせて後頭部を固定した。
そして流れるようにキスをする。



「名前が悪いんだよ」



私のせい、なんだろう。
唇の柔らかい感触を甘受しつつ、思う。

臨也は優しくなった。
ただし、壊れてしまうのを引き換えにして。
そうしてしまったのは多分、私のせいなんだろう。

だったら、逃げるわけにいかない。


「好きだよ、名前」


前までは望んでいた睦言。
嬉しいはずなのに今では思えなくて。

哀しい、と感じてしまうのは可笑しいことだろうか。





黒に染まったエンディング





誰にも知られることなく、物語はひっそりと終わる。


――――――

蒼和さんリクエスト夢でした。
「物語」のバッドエンドver.ただし、あまり夢主が可哀想じゃない感じ……とのことで私なりに頑張ってみたつもりです。
元々バッドエンドや監禁系を書いた経験が少ないもので、こんなふうかなと試行錯誤してみました。

企画に参加くださりありがとうございました!




叶亜