距離


泣き出してしまった僕に驚いた様子の鬼灯は、気を利かせたのか部屋を出て行った。
情けないと思いながらも涙は止まらない。
数分して鬼灯が戻ってきたようだけど、構わずに泣き続けた。
ああ心が千切れてしまいそうだとキリキリと痛む胸に手を当てると鬼灯とは違う声が木霊する。

「…何故、あなたが心を痛めるのですか」

まさかと思って振り向くと、ドアの前には困ったように微笑むなまえちゃんがいた。
驚いて止まった涙は、彼女の痛々しい微笑みにまた僕の視界を歪ませる。

「神獣様が泣くことはありませんよ」

哀しいのはなまえちゃんだ。
それなのに泣くことも怒ることもしない彼女は、躊躇いながらも震える指先で僕の涙を拭ってくれた。
僅かに感じる温もりが苦しいのにどうしようもないほど愛しくて、その手を傷つけないようにそっと握った。
きっと顔は情けないほどぐちゃぐちゃだろうし、鼻も赤くなっているだろう。
…でも今言わないといけないと思ったから、なまえちゃんの手を取ったまま片膝を立てて屈んで、彼女を見上げた。

「なまえちゃんが神様を嫌ってるのは分かってるし、嫌って…ううん、恨んで当然だと思う」

「………」 

「…ねぇ、なまえちゃんは【僕】が嫌い?」

「…、それは」

「狡い言い方してごめんね?……僕は神獣で、その事実は変えられない。でももし【僕】のことを嫌ってないなら、僕と話をして欲しいんだ。怒鳴っていいし、殴ったっていい。君を傷つけた神の代わりに罪滅ぼしする訳じゃないけど、僕は森羅万象を識る神獣だから、もしかしたら君を元に戻してあげられるかもしれない」

可能性は低いけれど、ゼロではないはずだ。
けれどなまえちゃんが頷くことはなく、ならば彼女の為に何をしてあげられるだろうかと目を伏せた。

「…ごめんなさい」

その声に視線を上げると、玲海ちゃんが目線を合わせるように膝をついていた。

「」







 

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