相談
「白澤様、どうかしたんですか?」
ぼんやりと従業員のうさぎさんを撫でていると薬を調合していた桃タロー君が心配そうに聞いてきた。
「ここ1週間くらい元気ないですよね。お店に来る女の子も口説かないし、あれだけ通い詰めてた衆合地獄も行かなくなっちゃって……」
「……ちょっとそういう気分じゃないだけだよ」
女の子と遊ぼうとしたし、お酒を飲んで忘れてしまおうともした。
でも何をするにも気分が乗らないし、意識しないと笑顔も保てない。
思っていた以上に僕はなまえちゃんに拒絶されたことが堪えているようだ。
自分でも塞ぎ込んでいる自覚はあったけれど、お店を開けているだけでも褒めてほしい。
出来る事なら自室に籠っていたいのだから。
「あの、俺で良かったら話聞きますけど」
見兼ねてお茶を煎れてくれたらしい。
渡されたお茶にお礼を言って口を付けると、程良い温かさが身体へと染み渡った。
少し落ち着いたところで口を開いた。
閻魔殿でなまえちゃんと出会ったこと、朴念仁に妨害されて中々会えなかったけど偶然会えたこと、順を追って話すと、桃タロー君は茶化すことなく聞いてくれる。
「…ねぇ桃タロー君は女の子に嫌われたことある?」
「女性に、ですか。嫌われるも何も、…恥ずかしながら俺、まともに付き合ったりしたことなくて」
「…そっか。…僕ね、その女の子にきらいって言われたんだ」
「ええ?!白澤様がですか?」
今までも頬を張られたりスケコマシと罵られたことはあったけれど、嫌いだと言われたことはなかった。
自分で言うのもなんだけど、僕は神様だ。
皆何だかんだ言いながら慕ってくれているのを感じていたし、それが当たり前で…神様は無条件に愛されているのだと思っていた。
桃タロー君もそう思っていたようで、驚いている。
「うん。近づかないでとまで言われちゃった」
「…いったい何をしたんですか」
「それがさ、何もしてないのに嫌われてるみたいなんだよね。誘ってはみたけど、まだ手も握ってないよ」
「でも理由もないのにそんなことは言わないんじゃないですか?白澤様が気づかないうちに何かあったとか」
「聞いたよ。でも理由がさ、神様が嫌いって言われちゃって……流石にショックでね」
「それは…」
桃タロー君は言葉を濁した。
まぁ神様が嫌いだなんて、僕の存在自体を拒絶されているのと同じことだから言葉が見つからないんだろう。
「あの、鬼灯様なら理由を知ってるんじゃないでしょうか」
考え込んでいる桃タロー君に申し訳ないなと思っていると出された提案。
「何千年も一緒でわざと白澤様に会わないようにしていたってことは、白澤様が…という訳ではなく、なまえさんが神様を嫌っているからなんじゃないですか?」
言われてみれば確かにそうだ。
初めてなまえちゃんに会った時の鬼灯の表情や態度は何処か焦っていたように思う。
「…桃タロー君、ちょっと店番お願い」
「はい」
理由が分かれば普通に接してくれるかもしれない。
善は急げだと立ち上がると桃タロー君はほっとした表情で見送ってくれた。
良い弟子を持ったものだ。……今度少し給料上げてあげよう。
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