ちらほらと舞う雪を尻目に学校への道をゆく。坂の上に校門が見えた辺りで、ようやく何人かのクラスメイトと顔を合わせた。おはよう、おめでとう、さむいね。そんな声が雪に紛れ込むように密やかに交わされていく。

「あ、あけおめ。」

自転車で苦しそうに坂を登っていた女に追いついて、追い越そうとすればどうやらそいつは俺の自称親友だったらしい。派手な色のニット帽のせいでまったくわからなかったが、相変わらず元気そうだ。

「おっす、おめでと。」

「っていうかタカ、メール返してよ。」

自転車を諦めたアキが歩いて、こちらをジト目で睨めつけて口をとがらせる。

「忘れてた。返そうと思ってたんだけど。」

「サイッテー」

でたよ、女子のサイッテー。新年初サイッテーいただきました。あざす。

「何笑ってんの。」

「いや、かわんねえなって。」

「は?そう簡単に変わるわけないでしょ。」

「そりゃそうだ。」

校門の前には迷惑なほど元気な六十すぎの校長が立って、それに付き添って英語の新任のミヤケが寒そうに立っている。その横を少しダルそうに挨拶して自転車置き場に向かう。

「ミヤケちゃんかわいそーだった。」

「すげえ震えてたな。風邪引くんじゃねえの。」

「っしょ、っと。ありがと。」

自転車をとめて、でっかいリュックを背負うアキの隣を歩く。男の中では小さめの俺と女の中では大きめのアキでは歩幅も変わらず、他の女子と歩く時みたいに気を使わずに歩く。そうすると、他の所に視線がいくものか。自転車をうまく動かすために手袋をはめずにいた、真っ赤な指先が痛々しく目に映る。

「ん、かしてやるよ。」

「カイロ……いいの?タカ寒いでしょ?」

「別にいいって。アキのが寒そうだし。」

そういえば、アキの細めの目が更に細くなって、糸になった。口元をゆるめて、ふふと笑う。
女らしさ、と言われるものの欠片もないこいつが、何故か見ていられなくなって顔をそらす。

「ありがとう、タカ。」

柔らかな春を思い出すような笑み。

「おう」

もうじき、春がくる。




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