冬はきらいだ。

たしか、君はそういった。
やっぱりそんなことをいうのだから日も短くなってきたころのことだ。
現国の田中から逃げ切って、ふたりで屋上でひなたぼっこをしていた気がする。

「どうして」

そう尋ねると君は少し口ごもった。
膝の上に頭を乗せた君はごろんごろんと横を向いて小さく呟く。
弱々しい声で、切なげに。

「…あんたが恋しくて死にたくなる」

「…そう」

恋しくて死にたいだなんて、君はこんなにも詩人だったっけな。
いつもの君からは想像も出来なくって少しわらう。

「あんたは?冬はすき?」

「まあまあ、かな。空気がいいのは評価すべき点だとおもってる」

そう、とだけ君は呟いてまぶたを下ろした。
人間の頭ってたしかよんきろくらいなんだったっけな。
どおりで重たいはず。
膝の上のよんきろを撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
君は猫か。
犬は喜び庭駆け回る、猫はこたつで丸くなる、と。
ねえ、愛玩動物みたいに沢山愛してあげるから死にたくなるなんていわないでよ。
一人でなんて、君がいないと生きてなんかいけないんだよ。
なんて、確かに思っていたの、です、よ。
あれから幾度も雪が降り、私も十代を終えた。
君はあの日の次の春、遠くへと越していってしまった。
そうして、就職活動も迫る大学三年生の冬をむかえる。
有名なコーヒーチェーン店で、一人課題に向き合う。

「冬はすき?」

空耳。
そんなに、か。
課題を眺めながら小さく微笑んで呟く。

「きらい。」

「なぜ、どうして」

「大切な人がいなくなってしまった。恋しくて恋しくて、死にたくなる。」

「そう、僕はすきだよ。」

空耳、じゃあない…?
顔を上げて前をむく。

「…なぜ、どうして」

一人で掛けていた筈のテーブルの向かい側に座る青年。

「大切な人に再会できたから。」

「…よかったね。」

少しだけ大人っぽくなった顔立ち。
低く安定感のある声。

「ただいま。」

零れそうになる涙と伝えたいいくつもの言葉を飲み込んで、

「おかえり」

一言だけ贈るよ。




20120427
こんな結末になるとは思ってもいなかった。なかった。
大事なことなので二度言いました。
いや別に大事じゃないけど
いつもとは大分違った雰囲気ですねはい懐かしいといいますか

「冬はきらいだ、あんたが恋しくて死にたくなる」というお題を薄声様よりお借りして書かせていただきました(一部改変おまえ→あんた)。



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