キイィィと嫌な音をたてて爪と黒板が擦れる。
圭太が顔をしかめてうるせぇと呟いた。
削れた爪を眺めて、どうしたら血が出るんだろう、なんて。
別に嗜虐嗜好があるわけでも、被虐嗜好があるわけでもないのだけど。
いうならば、苛立ち。もどかしさ。
血が出て欲しいような、痛々しいものは見たくないような。
どっちなんだよ、はっきりしろよ、曖昧な奴だなあ。
綺麗になった黒板に、思い切り落書きしてやりたいような、でも、汚したくないような。
結局、怖くって汚せない。
血が怖いから、肉を擦らないように爪を伸ばした。
臆病者め、と誰かが貶す。
知らないことは怖いんだ、仕方が無いだろと誰かが庇う。
思い切り叫んでやりたい。積もって山になったこの思いを吐き出してしまいたい。
でもそんなことしたら、圭太も、祥子も、潤も離れてっちゃうんだろうな。
怖いや。
ひとりぼっちは、怖い。そんなの、誰だってだろ。嫌われるのと同じくらい。
本当に強い人って、ひとりぼっちでも挫けない人なんだろな。
私には無理だ。なれないよ、そんなのに。
寂しいのは嫌だ。
誰かに認められないなんて、生きてる価値ないよ。
死んだほうがまし。
曖昧な自分が嫌いなような、すきなような。

「…おい、どうした?」

「…なんでもないよ」

曖昧な微笑みを浮かべて、疲れてるみたいと呟いた。



20120310
曖昧な自分に嫌気がさした。
曖昧な自分がすきだった。




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