「旦那ー!西の織花様がきてるよー!」

今日も今日とて、北の魔王城には私の声が響く。
北の西の東の、三魔王のうちの一人こと旦那の飛鳥君を探す。
今日はお客様がきてるのだ!ふへへ。
西の魔王、織花様。
とっても素敵な大人の女性で、なんというかとってもクールでかっこよろしい。
旦那の仕事は魔王、なので月に一度は魔王の定例会。
北と西と東の魔王が集まって話をするのだ。
議題を決めて進行、最終結論を出す北の飛鳥様(旦那)。
内容を王様に伝えたりする仕事を負う西の織花様。
王様からの判断を聞いて、それを議題に持ち込む東の冬真様。
皆様魔力が高いだけあって大変身目麗しい。眼福眼福!
まあそういうわけで、旦那を探しているのだけれど…あっれえ…ベッドにもいなかったし、リビングにもいなかった。
急がないとまずいな…、織花様怒っちゃう。
ためしにメイドモンスターAにきいてみると、

「アア、ダンナサマデシタラ…」

と図書室の方にいらっしゃる筈です、と。
なっるほどー…。
そりゃあ、見つからないはずだ。
図書室に足を運ぶと、ああいた。

「旦那!」

「なに、騒々しいよ。」

魔法薬の棚に向かって本を開いていた。
ちらり、とこちらに目を向けて…って流し目とかおま…。
西の織花様がきていることを伝えるとひとつおおきく舌打ちをして。

「あっのばばあか…!定例会は今日じゃないから油断してた。
 僕は行く、これ。しまっといてくれるよね?」

「え」

二冊ほどのぶあっついものを押し付けられた。ウッワーオめっちゃいい笑顔!
断ったら後が怖いことは重々承知している、わかったわかったと返事をして本を棚に突っ込む。
私は本を読むのが嫌いではない。割りと好いている。
だけど、この図書室に立ち入ったのは二度目だ。
ここに来ると、とある悪魔を思い出すから。


=====



嫁に来たはいいものの、特にすることもなく与えられたのは暇だけ。
自由にしてくれて構わないよ、と旦那が言ったものの嫁入りした身でそうそう自由な行動はできない。
だから、できるのは魔法薬の研究や、編み物、それから読書に掃除。そんなものだったわけだ。
散策にでかけたわけだが、慣れない城で迷子になって、ある廊下にたどり着いて。
恐る恐る押し開けた、そこに唯一あった扉。
その奥は埃っぽい薄暗い部屋だった。
本が並び、紙の匂いがして、中心に机がひとつ。
慎重に足を進めて、並んだ本に手を伸ばした。
覗き込んだ本中身は悪魔学についてのもので、生態から契約の仕方まで。
皮膚に呪詛を刻印だの、生贄の殺し方だのなんだのみていて吐き気のするものばかり。
本を閉じようとしたその時、何者かの気配を感じて総毛立つ。
舐め回すような視線を感じて勢い良く振り返る。

「お嬢ちゃん、悪魔に興味あるのかい?」

「な、」

「私と契約してみないかい、ねえお嬢ちゃん?
 憎んでいる人がいるだろう?嫌いな奴がいるだろう?
 私と契約してみないかい?
 きっと、そいつらの最期がみれるよ?」

へらへらとした、手をねりまわした―――下級悪魔。
気味が悪い、
ぎょろりとした目、
紫の肌、
だらしなく緩みみった口許、

「ああ、ご紹介が遅れたね?
 私は下級悪魔。名前は、まあお嬢ちゃんなら知ってるだろう?」

「下級悪魔に名前は存在しない。
 名前が存在するのは契約者か雇い主のいる下級悪魔と上級悪魔のみ…。」

常識を習う授業で何度目かにでてきた悪魔学。
悪魔学自体は常識じゃないけれど、それでも、悪魔について多少は知っておかないと二年生になったときの選択で悪魔学をとるか天使学をとるか、妖精学をとるかがかわってくる。
結局私はとらなかったのだけれど――、とそんなことはどうでもいい。
下級悪魔には名付け親が必要なのです、契約者もしくは雇い主に名を付けられないと下級悪魔は下級の中でも下級、強くなれないのです、と教授が言っていたことを思い出す。

「そうそう、よくご存知で?
 ねえ、私と契約してみないかい?」

どれだけ契約したいんだよこの下衆…、なんて、契約したくない悪魔なんて上級悪魔だけだろうけど。
下級悪魔は契約者か雇い主がいないと消えてしまう…、

「お嬢ちゃん?」

悪魔の手が私に伸ばされる。
気味が、悪い…っ
触れるか、と思った瞬間、ギィと扉が開いた気がした。

「雪代?ここにいるの?」

気がするんじゃない、開いたんだ。
悪魔の顔色が変わる。

「あ、いたいた。一言言って…おや」

聞こえてきた声に顔を向けると、一瞬だけ目を見開いた旦那がいて、にっこりと微笑む。

「どこから入り込んだのかな、俺の家に。」

「いやあ魔王様のお宅だったとは…!
 へへ、私下級悪魔のものでして、私と契約してみませんか?
 憎んでる奴や嫌いな奴の最期がみれますよ、いかがでしょう?」

あ、この悪魔死んだ。
悪魔に迫られていた状況が怖かったのに、今なんもこわかあないわ!
旦那の顔から笑みが消える。

「はい、でていこうか。
 …俺の家に下級悪魔はいらない、穢れるだけだからね。
 さーん、にーぃ、いーち、ぜーろ。」

唖然、と悪魔。
そんなことをしているうちにカウントダウンは終わってしまった。
かつん、かつんと近づく足音。

「え?」

「ほら、早く出て行かないから…仕方ないよね。」

いつも笑顔のやつが無表情になると怖い、これ鉄則ね。
悪魔の消滅の瞬間なんてみたくないけれど、顔をそらすわけにはいかなかった。
だって、私はこの人と結婚したんだから。
旦那が手を翳したかと思えば、ぐぢゅ、と悪魔の体から音がする。
とても見苦しくグロテスクで、口許を覆いそうになったけど、するわけにはいかないんだよ。
すべてが終わった時、といってもそう長い時間じゃない。
20〜30秒程度の、とても短いもの。

「術を強化するよ。ごめんね、雪代。」

「…ううん、ありがとう。助けてくれて。
 怖かったから。」

「そう、ならよかった。
 もう二度とこんな事はないようにする、誓うよ。」

ぽんぽん、と頭を叩かれて顔をあげる。

「術、二重で掛けたいから手伝ってくれる?」

「もちろん!頑張るね。」

「え、頑張らなくちゃそんなこともできないの?」

「えっさっきまでの優しさどこに」


=====


、とまあ。
結局何事も起きなかったわけだが。
ここで会った下級悪魔のことは未だに忘れられない。
あの後術を強化してもう二重したわけだけど、恐怖心はなかなか消えず、今でも立ち入る気になれないというだけ。
さーて、西の織花様に会いにいこーっと!
ああああ、もう!
旦那のせいでちょっとくだらないことを考えちゃったせいで!
織花様を眺める時間がへっちゃったじゃんかあああああああっ

(20120820)

もういつ真面目な方のこれを公開すればいいのか、
だってまだ第二話できとらへんしおすし
次は織花様やりたいです!つか織花様です。
ちなみに今回の文字数は改行なしで2739字。結構頑張った。

この話の悪魔と魔族について
○悪魔
 原産国:異世界デヒルト
 魔王と複数の上級悪魔によって納められている貴族制国家
 上級下級とわかれており、上級悪魔は貴族等なんかいろいろいる
 下級は上級に仕えたり他の種族と契約したりして何とか生きてるかんじ
 下級は名前がなく、雇い主とか契約者に名付けてもらわなければ消滅してしまう
 (ちなみに、この話ではサタンとルシファーは別物としてあつかいます)
○魔族
 原産国:魔法の国詞央
 王一族と魔王三人によって納められているまじで平和な貴族制国家
 魔族には階級があり、雪代はまじで結構上級な家柄。
 魔王は前閑話で行った通り魔族だけどちょーっと違うなあ…みたいなみたいな
結構シビアに生きる悪魔と上級下級という分け方もされず消滅することもない魔族、というわけかたです
容姿は大分ちがいます、下級悪魔は所謂あの、ね?小学校の時保健の先生がみせてくれた「ケケケ!」とかって笑ってるちっちゃいやつですイメージは、上級は人間に近いものもいれば「うえ?!」ってなるくらいかけ離れた奴も居ます。
魔族は結構まじで人間。

 

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