「伊代君ー?お昼ごはんできたよ」

「あ、えっと、何だっけ名前」

MASAKANO?!?!
マサカノ?!
まさかの?!?!

「雪代です…!」

「ああ、そう。雪代ね。」

部屋から顔をようやく覗かせて、首をばぎぼぎと鳴らしている伊代紗月君とやらはダイニングへ大人しく向かってくれる。
長袖の白シャツの腕を捲るとはなかなか女性に人気そうだなあ。
いいよね、あれ!
そんな脳内暴露をしていても仕様がない。
昼食はサンドウィッチを適当に。
卵をゆでてマヨネーズと和えながらぐちゃぐちゃに混ぜる。キュウリは塩揉みしたり、ハムを切ったり。
楽な割にはおいしいし、自分の好きなものを挟むことができる。
なんてすばらしい西洋料理。
最近和食食べてないなあ。

「っふああ…」

欠伸しながら起きてきた旦那の分も紅茶を淹れる。

「なに、サンドウィッチ?」

「それ以外の何かに見えるの?」

「飛鳥君の隣に座りたい!」

…これが、女の子だったら凄く微笑ましいのだけれど、生憎彼は男だ。
ああ、悲しいかな。

「っていうか、雪代は食べないの?」

「食べます食べます!」

ぼーっとしてたら無くなるぞって感じですかね!はい、分かります!
いただきます!
急いで席について、パンに卵を挟み込んだ。


=====


「ごちそうさまでした」

「…?」

不思議そうな顔をする伊代君にああ、と呟いて旦那が教える。

「これは極東の国の、食物に感謝するって意味の動作。“いただきます”と“ごちそうさま”って言うんだよ」

「食物に感謝?」

「あは、んー…とね。
 食事を作った人、今回は私と、食材を作った人、つまりは町の人間。
 それから、私達の血となり肉となる動物達に感謝の心を示すんだよ。」

「…ふうん、ごちそうさま?」

「そう、」

手を合わせて少し疑問がきえたように呟いた彼がすごく微笑ましい。
いい子だなあ。


皿洗いを適当に済ませて箒を捜す。
乗るの久しぶりだなあ。

「あれ、どっか行くの?」

「ああ、うん。ほら、夏服買いに」

「…一緒に行くよ」

「え?ありがとー」

…なにかあったのだろうかまじでこえー!
や、だってさ?だってさ?旦那が無償で付いてきてくださるんだよ?
伊代君は一緒に行って観光しているというのでとりあえず財布だけ持ち出してきた。

「乗った?」

「うん」

ぶつぶつ、と口内で声を発する旦那を見つめていると、あたりの風景ががらりと変わる。
ああ、久しぶり。
城下の街―マルクト
レース編みやかご編み、スイーツといったものも、経済的なものも発達した街。
オレンジ色のレンガ造りの街並みが目に映る。
さて、行こうか。



*前 次#



Bookmark