「飛鳥君、ちょっとベッド行こうか」

「…行ってもいいけど何もしないよ」

「いいよ、俺が攻めたい。」

「ちょっとてめえら調子のんな、この小説の主人公はおれなんだよ」

あ、おれっていっちった。
ないわないわ、ミスったわ。
つーかおまえらどこのカップル。
ていうか女役どっちよ?

「いやいやいやいや、何いってんの、雪代。
 そうじゃないでしょ、そこはせめて"私の愛しい人に手出すんじゃないわよ"くらい言おうか。」

「え?…愛しい、ひと…?誰が…?」

「何か僕に似てきたね、雪代。」

「…っえ、うっせやーん。
 ゆっちゃんまじせーかくいーこだしぃ〜つかありえんしぃ」

「飛鳥君、べっどぉ〜」

「…疲れたから僕は寝る。
 紗月君、着いてこないでくれるよね?」

くす、と上品な(まじで黒い)笑みを浮かべながら旦那は伊代紗月君を見る。
ああ、なるほど。
これはもてるわ。
黒髪黒目で整ったルックス。
細身で弱いかと思えばこの世界でTOPに立つ魔術の腕前。
お淑やかな性格。
まるで女みたい。
あ!そうだ、うん、女役は旦那か!

「…ツッコミどころが多すぎてなんも言えない。」

「同意するよ。」

あっれぇ、紗月君も心読める感じ?
まじかー、身の回り敵だらけじゃね?

「敵じゃなくて見方、の間違えでしょ」

くすくすと、
今日はよく笑うね。

「見方じゃなくて俺は敵ね」

「わかっております。」

ああ、久し振り、
このライバル感。
思わず笑ってしまう。
この高揚感。
どうしよ、どきどきしてきた。

「…俺、今日も泊まってく。」

「…え?」

「…好きにすれば、雪代に任せた」

そう言って寝室に向かいながらシャツの襟元を緩める。
白い鎖骨がえろい。
カーテンの向こうに旦那が消えた瞬間。

「…変態?」

「ちょ、変態じゃないんだよ。
 自分の欲求に素直なだけだよ!」

「…素が変態とは」

若干引いたように顔を顰める。
え、え、ちょ!変態じゃないのよ!素なの!
ほら、人間だもの。

「それで、泊めてくれんの?」

「…んー、まあ、いいか。
 客室案内するよ」

どうせ、世話すんの私じゃないし。
モンスターだし。



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