そういえば随分昔に魔王一族には名字がないという話をした。
正しくは、身体に刻まれた紋章、ということだ。
魔族と呼ばれるわたし―旦那も、あーちゃんも、母さんも兄さん達も綴紫も柚紫も―一族の紋章が彫られている。
だが、あーちゃんや母さん兄さん達綴紫柚紫達には名字がある。
違いはなにか、
魔王かどうか。
その一言に尽きる。

まずは紋章について説明しようかと思う。
旦那と私に彫られているのはサーブル色の生地にグール色の刺繍。
刺繍は十字にローマ字で細かな文字が彫られている。
実家はアガド色の生地にアルジャンの刺繍。
海をイメージさせる模様。
あーちゃんはシマン色の生地にブラン・ドゥ・ザング色の刺繍。
刀を持った戦闘的な模様だ。

「その紋章には、それぞれの一族の歴史が込められていると言っても過言じゃないしね。
 わかり易い例が雪代の実家だね。
 昔は外交で栄えた、という証拠。
 麻祇さんは昔戦争で名誉を得たという証。」

「うん、他人の思考に入ってくるのやめようね!」

「読みやすいからいけないんだよ、あはは」

「うわあ、どんだけ自己中なん?」

「なんかいった?」

「イエ、ナンデモゴザイマセン。」

「そう?ならいいんだけど―」

そして、魔王と魔女の違い。
魔王と魔女は元々一つの種族だった。
いくつかあるまとまり、つまりは集落同士で争いが起こる。
例としては肥沃な土地。
生きて行くための、それから娯楽を求めての争い。
団結しなければ勝てない、ということに気づいた彼等は指導者を求めた。
頭が良く、勇敢で、尚且つ魔力の強いものを。

「そうして選ばれた指導者は進化を遂げた。
 魔力が普通の魔女の何十倍何百倍になり、」

「だから心読まないでくれるかなあ!」

「クスッ、無理かな。…着くよ、荷物は持った?」

「うん」

城が見えてきたところでスピードを落とす。
まあ、魔王の力はいずれ分かっていくからいいよね。
妥協も肝心、だよ。

「うっはー、久し振りすぎるわー」

「だろうね。ほら、風邪ひくから入りなよ。」

「了解でありまーす。」

「つかおまえツッコミだろうが。なにボケまくってんだああん?」

「すんませんかんべんしてくださいほんとちょまじでやめてくださいっすつかまじこわいっすこわいよこわいよたすけておかあさんおかあさああああああああんおそわれるよいぎゃあああああああああこのろりこんめってああどうねんだいだったいっけねってひやあせがぱねえっすすんませんすんませんおねがいですからそのさーべるおろしてくださいどこからだしたんだてめえってああすみませんすみませんおねがいですごめんなさいもういいませんゆるしてくださいったくめんどうだなこのやろってうわわあああごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうそんなおこらないのってなんかあおすじたってませんたってますよねええそうですよねそうですよねえええええええええええうわああああああああごめんなさいごめんなさいゆるしてだーりんってうわきもってうわまじでこわいっすうわうわうわああああああああ」

「棒読みやめろや」

「デスヨネーッ」

サーベルを後ろから付きつけられながら両手を上げて進む。
うっわあああああああああああ!まじこええ。



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