天才少年


 パソコン室へ入ると、デジモンたちは京ちゃんが持ってきたらしいお菓子やゼリーを食べていた。


「ウパモン!」

「いおりー!」

 伊織くんはウパモンを抱き上げた。微笑ましい光景だ。


「湊海様、お待ちしておりました」

「はは、ありがとう」

 私は跪いたラブラモンの頭を撫でた。……少しだけ、心が落ち着いた。


『先日行われたチェス大会では、20人もの大人を相手にし、更に勉強やパソコンだけでなく、スポーツも万能なんですよね! 柔道、それにサッカーと大活躍です!』

 大輔くんたちはパソコンでテレビを見ていた。その後ろから画面を覗き込むと、近頃話題の一乗寺賢くんが、大人のゴールキーパー相手にシュートを決めていた。これで私より一つ下なんて、世の中どうなってんだろうね。


「へえ、すげえシュートだな!」

 大輔くんがそう声をあげた。サッカーをしている大輔くんが感心するくらいなんだから、やっぱりすごいんだろうな。


『では、この天才少年を育てたご両親にお話を伺ってみましょう。やはり、天才を育てるのに気をつけられた点などはありますか?』

『いいえ、何も特別な事はしませんでした!』

『何て言ったらいいか、トンビが鷹を生んだとでも言うんですかね?』

 リポーターの質問に、一乗寺くんのご両親は頬を染めてそう答えていた。やはり息子が天才だと、親として誇らしいのだろう。凡人の私が少し申し訳ない気がしてきた。


「それにしても、本当に一乗寺賢さんみたいな人っているんですね」

「うん、尊敬しちゃうよね」

 私は伊織くんの発言に頷いた。勉強もスポーツも完璧に出来るなんて、羨ましい限りだ。


「あれ? いつ来たの?」

  ヒカリちゃんは振り返り、私たちにそう尋ねた。みんなも不思議そうにこちらを見つめている。


「あ、さっき」

「みんなテレビに夢中になってたから、声を掛けなかったんだよ」

 伊織くんと私はそう返した。


「でも、すごいよ。本当に天才なんだ」

「ふん! ちょっとしたプログラムぐらい、あたしだって書けるわよ」

 京ちゃんがパソコンの電源を消しながら、そう鼻を鳴らした。プログラムに関してなら、パソコン部員である私たちも出来るからね。気持ちは分かるけど、彼に勝てる気はしない。残念ながら。


「でも、スポーツ万能だってよ」

「ちえー!」

 大輔くんのその言葉に、京ちゃんは口を尖らせた。


「まあまあ、比べる相手が悪いんだよ。京ちゃんはオンリーワンだから問題ない!」

「オンリーワンねぇ……」

「ヒカリ!」

 京ちゃんが腕を組んで考え込んでいると、テイルモンがヒカリちゃんを呼んだ。


「あ、うん」

 私たちはテイルモンたちの方を向いた。


「デジタルワールド、どうなったかな?」

「私も心配です」

 パタモンとラブラモンが不安そうにそう呟く。


「そうだね、伊織くんと湊海お姉ちゃんも揃ったことだし!」

 タケルくんは伊織くんと私を見比べてそう言った。


「あー、待たせちゃってごめんね」

「僕も……」

「いやいや、別に気にしてないよ!」

 私たちが謝ると、大輔くんは首を横に振った。そんな大輔くんをタケルくんが呆れた顔で見つめる。


「よく言うよ……」

「え、何が?」

「大輔くん、湊海お姉ちゃんたちが来る前は騒いでたんだよ。それで京さんがテレビを付けたんだから」

「あらら、そうだったの」

 やっぱり待たせちゃって悪かったな。伊織くんは給食を食べていたからともかく、私は完全に私用だし――今度から気をつけよう。


「……湊海お姉ちゃんの前だから、カッコつけたいんでしょ」

 するとタケルくんは、ボソリとそう呟いた。


「そういうお年頃なんじゃない?」

「どうだか」

 私がそう言うと、タケルくんは肩をすくめた。私の前でカッコつけても意味無いのにね。相変わらず可愛いなぁ。


「デジタルワールドへのゲートは開いているわ!」

 京ちゃんがパソコンを操作し、ゲートの確認をした。どうやら今日もゲートは開いているようだ。今の私たちには、その方が都合が良い。


「よし、出発しよう!」

 大輔くんの掛け声に、私たちはデジヴァイスを構えた。――いざ、デジタルワールドへ!




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