それは、夏休み明けの新学期にやって来た。


『年齢操作じゃ!』

 いきなりメールを寄越してきたゲンナイさんは、そんな事を言い出した。


「年齢操作?」

 何言ってんだ、このじいさん。


「せっかく連絡してくれた所悪いですけど、私今から学校なんですよ。後ででも良いですか?」

 私は持ち物の確認をしつつ、メールを打ち込んだ。
何もこんな朝っぱらから送ってこなくても良いのに。


『大丈夫大丈夫、学校にも行ってもらうぞい!』

「はい?」

 私は思わず声をあげた。


「色々と話が見えてこないんですけど……何企んでるんですかジジイ」

『おい、今語尾に……まあいいや』

 ゲンナイさんは何も無かったように話を続けた。スルースキル高いね。


『湊海にはこれから、違う年齢の生活を体験してもらう。つまるところ、年齢操作じゃな』

「年齢操作って……今の自分の年齢が変わるって事ですか?」

『そういう事じゃ。二次創作でよくあるやつ』

「いや、それは知りませんけど……」
 
 私は困惑しながらそう返した。そもそも二次創作って何だ。


「趣旨は分かりましたけど、どうやって私の年齢を変えるつもりですか?」

『なーに、ちょいとデータをいじるだけの簡単な作業じゃよ』

「そのちょいとが恐ろしいのは気のせいですかね……」

 データをいじるって、一体何する気だろう……。


『人体に影響はないから心配無用じゃ!』

「はあ……」

 私は曖昧に返事をした。どうもこのじいさんの言う事、信じられないんだよな。


「それで、私の年齢が変わると何か良い事でもあるんですか? それとも、何か重要な理由が?」

『それはじゃな……』

「………」

 私はじっとゲンナイさんの次の言葉を待った。流石に今回はそれ相応の理由が――。


『特になし!』

「だあっ!」

 そのゲンナイさんの発言に私は思わずズッコケた。


「もう! 毎度毎度いい加減にしてくださいよ!」

『はっはっはっ、まあ細かい事は気にするな』

「全然細かくないんですけど……」

 私が怒っても、ゲンナイさんは朗らかに笑うだけだった。この流れ、前もあった気がするなぁ。


『という訳で、下から順にやっていくぞ!』

「どういう訳なんだろうか……」

 私は呆れてゲンナイさんを見つめたが、ふとある事に気がついた。


「……あれ、下から? 1回じゃないんですか?」

『うむ。全6回じゃ』

「ろ、6回……」

 その数の多さに言葉が詰まる。私はどれだけデータをいじられるのだろう。


『さて、準備は良いか?』

 冷や汗をかいていると、ゲンナイさんがそう問いかけてきた。


「はあ……駄目って言っても無駄なんでしょう? もうこうなったら、やるしかない!」

『うむ。良い心意気じゃな』

 私は息をつき、ぐっと拳に力を入れた。その様子を見たゲンナイさんが大きく頷く。
一抹の不安はあるものの、ここはゲンナイさんを信じよう。そして何かあったら、ゲンナイさんをラブラモンに任せよう。きっと原型をとどめない程度にあのじいさんを殴ってくれるだろう。


『では……行くぞ!』

 その瞬間、辺りは光に包まれた。これから私はどうなるのだろうか――。その検討は、さっぱりつかない。




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