真夜中の独白の少し前
今度は最初から最後までシズちゃんのターン










……帰んのか。

こんな夜中じゃもう電車も走ってねえよ。まさか徒歩で帰るわけじゃねえだろ? 今晩は泊まってけ。

……ああ?

誰が手前の心配なんざ………って、おい。本気で帰る気か。
……はあ? 散歩がてら帰る? こんな夜中に、そんな距離でもねえだろうが、ったく……。

……………あー、うぜえ。

いいから泊まってけっつってんだよ。
いくら不規則な商売やってるからって、急いでこんな時間に帰る必要もねえんだろ。………だから、誰が手前の心配なんざ………ああ、もう、マジでうぜえ……。

ああ、そうだよ。


心配してんだよ。


悪いか。ああ?

……………。

んだよ、手前。そのツラは。
……って、おい、こら……なに笑ってやがる。夜中にんな大声で笑うな! 近所迷惑だろうが! おい、ノミ蟲!
……だあっ、もう!

……………。

……暴れんなよ、めんどくせえ。
あ? なに言ってっかわかんねえよ、……ん、ああ、俺が口塞いでるからか……。
悪い。

………はあ、鼻で息しろよ。
鼻も抑えられてたって? ああ、俺のてのひらで手前の顔まるまる覆えるからなあ……。悪い、気付かなかった。

……………。

まだ言ってんのか。
馬鹿じゃねえの。お前、今だってこんなにも簡単に俺に抑え込まれてるくせに。
なーにが歩いて帰れるだ、危なっかしいことこの上ねえ。
いいから泊まってけ、つーかもうこのまま寝ろ。

………なんでって。

言っただろうが。心配だって。
ああ? 冗談で言うかこんなこと。てめえ、あれか。それで笑ってやがったのか。よし殺す。
……………。
……あほか。何も企んじゃいねえよ、手前じゃあるまいし。

………なんでそんなに驚くんだ。

おかしくはないだろ、別に。
……矛盾してる? ああ、そうかもな。殺してやりたい相手を心配するなんざ。
でも、矛盾してるっつーなら、こんなことしてる時点でもう矛盾してんだ。殺し合い以外のことをしちまった時点で、俺と手前はもうとっくに矛盾しちまってる。

今更だろうが、そんなの。


……………。



……なあ。

この際だから言っとくが、俺は手前が嫌いで、憎くて、殺してやりたいと思ってる。手前が、俺に対してそう思ってるように。
でも、それだけじゃない。

俺は、こうやってセックスをして手前に触れたいと思うし、キスだってしたいと思ってる。もし手前が俺以外の奴とそんなことしてたら、俺は多分その相手を殺す気で殴るし、その後で手前のことだって殺す気で殴る。


それから、手前にキスをして、殺す気でセックスをする。


俺は池袋で手前を見掛けたらいつだって殺す気で殴りかかるし、手前が夜中にひとりで帰ろうとすれば心配だってするんだ。矛盾してるだろ。でも、全部本当のことだ。
どれひとつ間違っちゃいない。

……なあ。


手前はどうだか知らねえが、俺は手前が好きだ。


別に恋人なんてもんになりたいとは思ってねえよ。そんなもんが欲しいわけじゃない。

でも、殺し合いもキスもセックスも、俺以外となんざ許さねえ。

俺は、手前を手放すつもりはねえんだから。



……………。

なんでそんな顔するんだ。



……………。

………、…………。


……別に急でも何でもねえよ、俺にとっちゃ。
ずっと思ってたことなんだから、むしろ今更だ。

なにも昨日今日の話じゃない。
昔からずっと思ってたことで、もう、とっくに俺の中では整理も納得もついてんだ。もうこれが当たり前になってる。

俺は手前が好きだ。



………なあ、なんで泣くんだ。



泣くような話じゃないだろ。
……泣くなよ。頼むから。


別に、怒っても笑ってもいいんだ。手前は。
俺は、手前が笑ったら手前を殴るだけだし、怒ったら怒り返して、やっぱり手前を殴るだけだ。でも、その後で理由ぐらいなら聞いてやる。


でも、なにも言わずに泣くのはやめてくれ。


そうされると、俺は、たちまちなにも出来なくなる。
泣いてる奴を殴るなんてできねえし、かと言って、俺は手前みたいに言葉がうまくねえから、なにを言ってやれるわけでもねえ。
こういう時、どうしたらいいんだ。
黙って抱きしめればいいのか。
でも、手前はきっと、そうしたら余計に泣くんだろ。

……………。
………はあ。
帰るって、そればっかりじゃねえか。そんなみっともねえ顔で池袋うろついたりした日にゃ、とんだ笑いものになるぜ。いいのかよ?

手前がなんて言おうと、今日は帰さねえよ。

……ばか、そういう意味じゃねえよ。くだらねえこと言うな。


そうやって、誤魔化そうとするな。

逃げるなよ。


………そんなことするか、馬鹿野郎。
なんでって?
決まってるだろ。

手前がそんな顔してるからだ。



……………。

……なあ。

俺が手前を好きだっつったからか。

だから、手前は泣くのか。


………違わねえんだろ。

それくらいは、わかる。
それ以上はわからねえけどな。

………わかってるくせに、そう言うのかって?


ああ、そうだな。


……………。
手前にだけは言われたくねえな。
手前よりはずっとマシだ。



…………あ? まだ言ってんのか。
……しつこいんだよ、ったく。ここまでくると駄々っ子だな。

言っただろ。


俺は、もう、手前を手放してやるつもりなんざさらさらねえんだからよ。


……俺はこんな体質だからよ、いろんなもんを諦める覚悟も我慢する忍耐も、ちっとは身に付けたつもりだ。

でも、手前は駄目だ。
他は良くても、手前に関してだけは、諦めてやるつもりも我慢してやるつもりもねえんだよ、俺は。なにひとつ妥協してやんねえ。
もう、そう決めたんだ。









……………。

………なあ、泣くなよ。
頼むから。

手前が泣いたって、俺は、どうもしてやれねえから。


………泣くなよ。

臨也。





真夜中の告白
20100502

しかしこの静雄フリーダムである