静臨前提で臨也さん(と門田さん)
最初から最後まで臨也さんのターン
あれ、ドタチンこんなとこでなにしてんの?
ひとりで居るなんて珍しいね、しかもこんな真夜中の公園でさ。狩沢たちは? どうしたの?
……あはは、ほんと苦労してるね。まあ、あのメンバーに囲まれてりゃ仕方ないか……って、ええ? やだなあ、俺がドタチンに迷惑なんてかけたことあったっけ?
……ふふ、わかってるって。
冗談だよ、冗談。
ドタチンには本当にいろいろ迷惑かけちゃって、感謝もしてるし、申し訳ないとも思ってる。ごめんね? 反省してるよ。
これからは気をつけるよ。
………………。
そんなあからさまに疑ってる顔しないでよ。傷つくなあ。……うん、まあ、確かに嘘だけどね。さすがドタチン、俺のことよくわかってるよね。
あ、でも感謝してるっていうのは本当だよ? ま、別に信じなくてもいいけど。
……………。
………あは。
俺、ドタチンのそういうところ大好きだな。
うん、本当に。嘘じゃないよ?
……わかってるって?
うん。そういうとこも、大好き。
……あ、今さらそれ訊くんだ?
うーん、特になにしてたわけでもないんだけどねえ。敢えて言うなら、月が綺麗だったから散歩してた、とか?
うん。
嘘だよ。
……はは、だよねえ。さすがドタチン、わかってるう。
……おや。
付き合ってくれるのかい?
酔っ払いたちのとこには戻らなくて大丈夫なのかな?
………失礼だなあ。
別にどこもおかしくなんかないよ。俺は至って正気だ。酔っ払ってもないし、気が狂ってもない。心配されるようなことはなにもないよ。
ドタチンはね、昔から俺のこと心配し過ぎだよ。
うん?
……まさか! そんなこと思うわけないだろ。
俺はうれしいよ。
本当さ。君が心配してくれるのが、うれしい。
この折原臨也を心から心配してくれるような物好きでお人好しな人間はドタチンぐらいだよ。
………さあ、どうだろうね。
うちの妹たちはちゃんと俺を兄と認識しているのかどうかすら怪しいし、新羅は愛しの彼女以外の人間のことなんてどうでもいい奴だからね。助手? ああ、波江。俺の心配っていうか、新しい働き口の心配ならするんじゃないかな。いや、それすらしないかな。彼女は重度のブラコンでさ、弟以外なら自分のことさえ軽視するところがあるからね。人間ってほんとおもしろいよねえ。
ん? あれ、これもらっていいの?
酔っ払いたちに渡す分じゃ……ていうかほんとに戻らなくて大丈夫なの?
………相当おつかれみたいだね。
ご苦労さま、パパ。労いに膝枕でもしてあげようか?
はは、後が怖いからやめとくって? やだなあ、いくら俺でも男の膝枕でぼったりしないって。
ちがう? ……よくわかんないなあ、まあいいけど。
ああ、うん。
それじゃあありがたく頂こうかな。実はちょっと喉渇いてたんだよね。
………。
……なーんで、そこでシズちゃんの名前が出てくるかなあ。
心配してるんじゃないかって?
常識的に考えてありえないよね。うん、ありえない。
シズちゃんが俺の心配なんてさ。
想像しただけで吐き気がするね。
……あれ、知ってたんだ?
ちょっと意外だな。
うん、そうだよ。セックスだってキスだってしてるよ。あの平和島静雄と折原臨也が! 池袋住民が知ったら卒倒するだろうね。
気持ち悪いでしょ?
俺も自分で心底気持ち悪いと思うよ。
……そうは思わないって? ……ふうん、奇特だね。
でもまあ、いい気はしないよね。高校時代の同級生が、なんてさ。ねえ?
……………。
………あー、もうドタチンほんと大好き。なんでそんな男前なの。
いまなら俺ドタチンにキスできるよ。しちゃう? 後学のためにもさ、いろいろと役に立つかもよ?
……やだな、誤魔化してなんかないよ。
まあ、俺はドタチンとはずっと友達でいたいから、そんなことやらないけど。
戻れなくなるのは、やだな。
……恋人? シズちゃんと? 俺が?
まさか!
セフレですらないさ。ただのカラダの関係がある他人。それだけだよ。俺とあいつの関係に名前がつくことすら腹立たしいし、鬱陶しいよ。
……ね、もうこんな話やめようよ。
たのしくないでしょ?
じゃあなんの話をするのか、って?
なんだっていいよ。情報屋さんは話題には事欠かないからね。
今晩は特別にタダにしてあげる。
……変な意味に聞こえるからやめろって?
あー、ドタチンってばいやらしー。
あはは、怒らないでよ。
………、……だからさ、シズちゃんの話はやめようってば。
なんでそんなに気にするかなあ。
………「お前がそんな顔するからだ」?
やだな、ドタチン。シズちゃんと同じこと言わないでよ。よりにもよってさ。
なんなのさ、ふたりして。
……さあね。知らないよ。
どんなつもりで言ったかなんて。
シズちゃんは昔からなに考えてるかよくわからないからね。まあ、わかりたいとも思わないけど。
シズちゃんの考えてることなんてわかりたくもないよ。
何ひとつ、わかりたくない。
……………。
………なんで俺が泣くのさ。
わかんないよ。
ドタチンは、時々とても難しいことを言うね?
……泣いてないよ。
だって泣くようなことなんてひとつもないじゃないか。なにか痛い目に遭ったわけでも、なにかを無くしたわけでもない。
この俺が泣くとしたら、それは人類が絶滅した時だね。
もしそうなったら俺は生きる価値すらなくしそうな気がするよ。想像するだけでも末恐ろしい。
愛する対象が消えてしまうなんて、とても悲しいことだと思わない?
俺はきっと泣いてしまうよ。
………、……。
ね、ドタチン。
…………シズちゃんがさあ。
すき、ってね。
言うんだよ。
俺がすきだって言うんだ。
おかしいよね、まったくもって。
大っ嫌いで憎くて殺したくて仕方がないノミ蟲をさ、すきだって言うんだよ? それってすごい矛盾だよね。遂に脳みそまで筋肉になっちゃったのかな?
なんにせよ正気の沙汰じゃない。
おかしいよ、ほんと。
………おかしい。
おかしいんだ、そんなことは。
……ねえ、ドタチン。
なんでドタチンがそんな顔してるのさ。
なんで、そんな痛そうな顔してんの。
ねえ。
なんで、今更すきだなんて言うの。
ねえ、なんで。
わからないよ、シズちゃん。
ねえ。
なんで俺は、それを聞いて、まるで愛する人をなくしたような気持ちになってしまうんだろう。
真夜中の独白
20100502