長い指がキーボードをタップすると同時に通信は切れ、子供たちの顔は暗転して見えなくなった。
 再び静寂に包まれた部屋の中、Lは床に置かれたカップを持ち上げ、喉をうるおす。
 好奇心旺盛な子供たちは、予想していた以上に、多くの質問を投げ掛けてきた。L自身に関することや、主な捜査内容、勉学についての相談事。子供たちは食い入るようにこちらを見つめ、自分の答えを一言でも聞き漏らすまいと、懸命に耳を傾けていた。しかし、ある質問に答えたとき、好奇心にかがやく彼らの瞳に陰がさした。
 『L』は聖人などではない。善人でもなく、むしろ悪人に近いとL自身自覚している。幾多の事件を解決してきた探偵だからといって、良い人間とは限らない。見えない者をその影から推し測り、信じ込むのは危険だ。Lは意図するまでもなく、事実を伝えることでそれを子供たちに示した。
 彼らの大多数は失望の色を浮かべたが、部屋の隅にいた二人は違った。チョコレートを食べていた金髪の少年と、パズルを解いていた銀髪の少年。二人は子供たちの輪に入らなかったが、あの部屋で最もLに関心を抱いていたのは明らかだった。

「L、ただいま戻りました。いかがでしたか、ハウスの子供たちは?」

「私がいた頃とあまり変わってないです…子供と接するのに慣れてませんから、少し疲れました」

 そうこぼすLに、「では、貴重な経験になりましたね」とワタリが微笑む。数秒後には彼の手によってケーキが用意され、Lは早速それにフォークを入れながら、再び口を開いた。

「…部屋の奥にいた二人は、目つきが悪かったですね」

「メロとニアの事ですか。金髪と銀髪をした…?」

「そうです………もし、私の後を継ぐ者がいるとすれば、あの二人のうちのどちらかになるでしょう…」

「…何故そう思うのです?」

 ワタリの問いに、Lはケーキを口に入れながら答える。

「彼らは手を挙げず、ずっと私を観察してました。私から何かを得ようとしていたのでしょう…全てを吸収し、私と同等かそれ以上の者になろうという意思を感じました」

 ほう、とワタリは驚いたように眉を上げた。Lは彼の淹れた紅茶を一口啜り、言葉を続ける。

「…まあ、後を継ぐとしても、それは何十年も先の事になればいいのですが……少なくとも私は今この事件で死ぬつもりなどありませんし、この座を明け渡すつもりもありません」

140113

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