式を挙げたのは正解だった、とリリーは星空を見ながら思った。静かに瞬く星たちの下には、目に見えない防御魔法が何重も施されている。闇の力が勢力を強める中、式を挙げること自体危険だったが、ジェームズは自分たちの望みを、皆の息抜きを優先した。結果、最悪の事態は起こらず、式はまもなく終わりを迎えている。
 ゆったりとしたジャズへ、曲調が変化した。照明は最低限に落とされ、ムーディな雰囲気が漂う中、親戚の夫婦や友人のカップルたちが、目を閉じ、思い思いに緩やかなステップを踏んでいる。革靴やヒールが芝生に触るささやかな音も、ドレスとストッキングが織り成す衣擦れの音も、この大人びた音楽の一部となっていた。
 リリーは、この式を忘れる日はないだろうと確信していた。緊張のあまり震えてしまった誓いの言葉、心底笑わせてくれたシリウスのスピーチ、招待を受けてくれた皆の祝福の声。
 ただ一つ気がかりなのはペチュニアが来なかったことだ。自分がホグワーツに行くと決まった時から、ずっと仲直りができていない。魔法使いを、魔法自体を嫌うペチュニアがここへ来ても、皆を困らせてしまうだけかもしれないが。結婚祝いの品は送ってくれたから、祝福はされているのだろうと思う。それが形だけの物だったとしても、リリーにはそれで十分だった。
「こんなところにいたのかい? 僕の奥さんは」
 ジェームズが笑いながら自分のいるテーブルに座った。その顔は紅潮していて、酔っているとわかる。お酒を純粋に楽しむのも久しぶりだった。
「何を考えてた?」
「……私たちは本当に幸せ者だってことを考えてたわ」
「ああ、それはもう、本当にその通りだ。ゴドリックの谷にこんなに人が集まったのを初めて見たよ」
 ジェームズは皆を見回すと、立ち上がり、こちらへ手を差し伸べた。
「リリー、一緒に踊ろう? 今日の主役は僕達だ、今踊らずしていつ踊る?」
 リリーは微笑み、その手を取った。これからもずっと、彼の手に導かれていくのだろう。そんな予感を覚えながら。
 彼女たちはこの時、すべての人々に祝福されていた――ただ一人を除いた、すべての人々に。

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